【魔法少女レムリア短編集】リトル・アサシン-26-完結
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アヘンを吸うわけにも行かず、ケシの煙が収まるのを待ち、彼女は彼を探しに行った。
しかし……どれだけ強力な爆弾なのか、そこにあるのは地面に出来たクレーターだけ。
凄惨な破壊を受けた人体なら幾度も目にした。しかし、ここには憚るような描写の対象すら無い。
文字通り、吹き飛んでしまったのである。
結果、荒野の墓標は、突き立てられた銃と、焦げた靴だけ。
彼が存在したという証は……このポケットのポピー一輪。
「名前は?」
医師は油性ペンと、トリアージのタグを手に彼女に訊いた。
トリアージとは、災害救助において、被災者の身体の状態に応じて治療の優先順位を付ける行為。タグは、その結果を書き込んで足首に付ける荷札状のもの。
「いいえ。聞いてません」
彼女は首を横に振る。自分は彼の名前を知らない。彼も自分の名前を知らない。
「私が来なければ……」
男の子に言い寄られた経験はないではない。拒絶した経験もないではない。
それは、自分がそれなりに人を惹き付け、そして傷つける存在でもある証左。
でも、でも、こんなのってあるか……。
神様、あんたひどい。どこの神様か知らないけど。
「いやむしろ、あなただから受け入れて、だからこそ昨日の子は助けられたのだ。そうでなければ彼らは治療を受け入れなかっただろう。昨日の子はもちろん、汚染されたナイフで今後も乳幼児が死に続けた」
彼女の二の句を遮って医師は言い、タグの記名欄にペンを走らせる。
「思い込むな。あなたが死に追いやったわけではない。彼らは命より大事なものがあると判断したのだ。彼らは戦士だ。それが彼らにおける人命の価値だ。彼らの判断に口を出すのは、彼らへの冒涜、我々のエゴの押しつけ」
〝R.I.P./little assassin〟
(眠れ安らかに/小さな暗殺者)
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リトル・アサシン/終
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