【恋の小話】ポラリス(1)
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あいつに訊きゃいいや。
オレは教室の隅っこで雑誌読んでる佐藤の所へ行った。
声を掛けても気付かないので、机の前にしゃがみ込む。
「なぁ」
佐藤はようやく読む手を止め、メガネの目をオレに向けた。
雑誌の表紙は粒子がどうの、理論がどうの。そんなの読んで何が面白いんだか。ただ、去年の大地震の時は、この雑誌のイラストで「ここからここまで動いた」とは聞いた。
「なん?」
何の用?の略した言葉。オレ達はそんな関係。
「マルゲリータLサイズのことなんだけどさ」
先週からオレはクラスの“さくら”ちゃんと付き合っている。コクったら(告白したら)OKしてくれたのだ。内緒にしてと言われたので誰にも話していないが、幼なじみの佐藤にだけは話した。その際、彼女のことをこう呼ぶことに決めた。言ってみれば暗号だ。
オレは小声で。
「星が好きなんだって。どこかいいとこない?」
デートの場所選び。すると佐藤は普通の声で。
「プラネタリウムか、太郎坊か」
「たろうぼう?」
「富士山御殿場側。天の川見えるぜ」
ところが、これがさくらちゃんに聞こえたらしい。
「天の川見えるの?」
ニコニコ顔で飛んでくる彼女はセーラー服が似合いのすごく可愛い女の子だ。少女マンガみたいにキラキラ光って見える瞳。サラサラの長い髪。
は、いいんだが、オレは物凄く焦った。佐藤てめぇ余計なこと言わないだろうな。
「あ、森さんって星好きなんですね」
佐藤は女子に敬語で喋る。苦手だと一度聞いたことがある。でもおめぇ、そんなんじゃカノジョできないぜ。
「うん好き、すっごく好き」
「じゃあ、太郎坊って知ってるんじゃないかな。そこの話だよ。クルマが無くちゃ行けないって話をしてた」
それが、オレに対する答えであることもオレには判った。
「だよねー。いっぺん行ってみたいなー。パパに頼んでみようかな。でもどうせなら望遠鏡持って行きたいよね」
「森さんは持ってないの?」
「あるわけないじゃん。高いし、操作難しいっぽいし。坂口君は?」
さくらちゃんはオレに振った。オレは本当は星なんか興味ないが、つい『あ、オレも』と言ってしまった。
『そうなんだ。星ってロマンがあるよね。だって遠い距離、遠い時間が見えてるんだよ』
……キラキラした目でそんなこと言われて、興味ない、なんて言えるかよ。
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(つづく)
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