【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-093-
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「いつも聞いてる音量で」
相原がひねったボリュームは会話が成り立たない。
が、レムリアの心理状態にはそのくらいでちょうど良いようである。音楽が思考を邪魔する。強引に入り込んで雑念を消して欲しい、ということだ。背もたれに身を預け、やや苛立ちを含んだ表情で窓の外を見たまま、一言も発しない。
夕日を背にし、まっすぐ伸びる中央フリーウェイを転がって行く。軽自動車なので速度を上げれば応じた騒音や振動も加味される。だがそれはむしろ猛々しさを演出し、レムリアのささくれだった心理には丁度良いようである。
であれば渋滞に引っ掛かるなど不相応である。相原は都心方面を避け、首都を迂回する環状路に入り、北からぐるりと巡り、東の方へと向かう。
まだ夜の訪れが早い季節である。やがて遠い山並みが夕闇にかき消され、対照に東京のビル群が灯火に彩られる。双方を分かつ高速道路は、オレンジのナトリウムランプが行く手に点々と続き、光の道と化す。
レムリアは変わらず、移りゆく車窓にじっと目を向けたまま、何も言わない。その頬をオレンジの照明がストロボのように交互に照らす。
北西へ向かう道、北へ向かう道、北東へ向かう道。標識に数百キロ先の地名の書かれた、幾つかのジャンクション。
分岐合流を次々通り、やがて車窓の風景だった東京の照明ただ中へと、相原はクルマを向ける。
東京湾岸地帯を行く。光と闇の境界線が街と海との境目を浮かび上がらせる。境界線は弧を描いて南西へと流れている。
溢れる人工の光の中、背後からプラチナ色の円盤が光を投げかける。
今日の月、満月が姿を見せたのである。
三叉路をなす鉄道立体交差をくぐる。程なく左手は日本一著名な遊園地。それを行き過ぎ、海沿いの道をひたすらに行く。針路が西方より南西、南南西と向かうにつれ、月の姿は背後より左方に移り、ナトリウムランプに変わって窓辺の少女の頬を照らす。
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(つづく)
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