【魔法少女レムリアシリーズ】ミラクル・プリンセス-101-
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女の子は目を開けている。その瞳には、月光に含まれない種々の色の光がきらめく。
種々の光をもたらすもの。女の子の目の前、シーツの上に置かれたティアラ。
まいかちゃんの病室である。
「きれい……」
まいかちゃんが口にしたその言葉は、消灯を過ぎて何度目かになる。散りばめられたジュエルは国力を反映してか決して大きくはなく、また数も少ない。しかし、月光はブリリアントカットを経て幾つかの光に分解され、陽光と異なるスペクトルで、小さな虹の王国をシーツの上に作っている。
「これ、王女様が魔法で出してくれたんだよ。まいかのためにって魔法で出してくれたんだよ」
「そうね」
答える母親の目から、雫が筋を描いて伝う。
“魔法”というフレーズに娘が全てを託し、僅かな光明を見いだそうとしているのが如実に判る。その姿を見ることは、親として、不憫でならないであろう。
「まいか助かるよね」
まいかちゃんは突然の動作で、母親を振り仰ぎ、尋ねた。
「え、ええ」
母親は慌てて涙を拭く。
「だって一度助かったし。お姫様が来て魔法で治してくれたし」
まいかちゃんが自分に言い聞かせるように言う。
その顔が歪み、僅かに震え、歯を食いしばる。
痛いのである。痛みが強く襲ってきたのである。
その痛みは身体を蝕み、死に追いやろうとするものを象徴している。その自己主張は、魔法の国を信じる心に、震撼に値する恐怖を招き寄せる。今の彼女に、9歳という年齢相応の子どもの心に、それと正面から向き合う強さを求めるのは酷であろう。健気な心ができることといえば、それを誤魔化し自らを鼓舞するために、意識をティアラと、それをかぶせてくれた年上の娘へと向けること。文字通り一心に意識を向け、痛みをやり過ごそうとすること。
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(つづく)
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