【恋の小話】星の生まれる場所(4)
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例のピラミッドは別のユニットが演奏中。ギターとヴォーカルで会いたいよ~会えないよ~系列。
「音程さておき詞がありきたりなんだよな。みんな同じ事しか言わないというか、ボキャブラリーが貧困すぎる。最近の女の子とか超とヤバイとカワイイしか言わねぇし」
「ごめんなさい」
思わず愚痴ったら脇から小さい声。
「ああ、あやなちゃんのことじゃないよ」
見ると、彼女はスマホでフリックフリック。言ったことをメモしている。
「……でも、私も似たようなもんだなって。だけどどうしたらいいかなって。本読めとか良く言うけど今更」
彼女は作家の名前を幾らか挙げた。ノーベル賞候補になるとかならないかの大家、推理小説、ライトノベル。それらは本屋の広告、平台積みで良く見る名前。
いずれもするりと読める。比してワンフレーズに情熱込める歌詞に対してはどうだろう。今の彼女に必要なのは速効性があって語彙力が付くモノ、と僕は理解した。ならば。
「短歌だ」
「え……」
「百人一首覚えろって事じゃ無い。今の言葉で綴られたモノもあるのよ」
いわゆる現代短歌で知られた名を幾らか挙げる。
「この辺なら聞いたこと位あるでしょ。三十一文字。そこから色んな色んなことが考えられる思い浮かぶ。そのためには応じたいろんな言葉を駆使する。例えば夜明けっていっても暁とか早暁とか薄明とか言い換えると空の色が変わる。その辺と心象を絡めたりしてるのが短歌」
彼女は頷いていたが、スマホでフリックの前に動き出した。その会える会えないバンドが拍手パラパラ終わって撤収開始。
配線を手伝う。アンプスピーカーにショルキーとマイク繋いで音量調整。
音出し確認OKでたい焼き片手に聴衆側へ。
彼女がショルキー構えて大きく一息。引きつるほどの緊張。
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(つづき)
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