【恋の小話】星の生まれる場所(3)
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「ふ~ん。今度寄らせてもらうよ」
味は悪くない。ただ、正規の皮とあんこのバランスにしたらどうか判らないが。
「ホントですか?ありがとうございます」
彼女は今にもピョンピョン飛び跳ねるのではないかと思うような笑みを見せた。
快速急行でたい焼きに噛みつく。座れたとは言え通勤電車。はみ出るあんこをこぼれないように食うのが中々難しい。
★
少し経った土曜日。
図書館ついでにたい焼き食うかとなったのはそういう経緯による。店にいるかどうかはどうでも良かったが、果たして彼女は店頭で例の鉄板に向き合っていた。
「間もなく焼き上がりまーす。たい焼きいかがですか~」
道行く人へのかけ声がレッスンの産物と気付いて僕はちょっと笑った。
「あ、あの時の」
「焼きたてちょうだいな。声伸びるようになったねぇ」
「ホントですか?ありがとうございます~」
2個と言ったのに3つ入り。
「サービスです。ウソです。1コはまた失敗品です」
そこで奥から声。「あやなちゃん上がっていいよ」つまりあやなというのは本名か。
「はーい!」
「お、今日もやるの?ストリート」
「うん!」
嬉しそうに答え、待っててと言われて待っていると、店の裏手から何だかんだ抱えた女の子が出てきた。
キャリーバッグにショルキーに……デカイ黒い箱ひとつ。
箱はキャリーバッグの上に乗っていたが、段差越える際にどんがらがっしゃ。
「あーあ」
いたたまれず駆け寄ると箱には著名な楽器メーカのロゴ。裏の端子類から屋外用のアンプ内蔵スピーカシステムと判じた。それはそれでバイトの身には値段それなり。
「持つよ。え?これ抱えて家と店と駅前通ってるの?」
「はい。あ、すいません」
取っ手があるのでぶら下げる。たい焼き屋があるのは繁華街。夕刻近くなり、外食の人波もある中、大荷物で横切って、ペデストリアン・デッキへ繋がる階段を上がる。
.
(つづく)
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