【恋の小話】星の生まれる場所(6)
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彼女はスピーカの傍らに積んであるフライヤーを紹介するでなく、そう言った。
それは、このノリ、流れを生かしたいという彼女の考えだと僕は受け取った。
「スマホ貸して。録画しちゃる」
「あ、はい」
多く創作する人は自分のしたこと細かく覚えているものだが、記録しておけば尚良かろう。
彼女はたい焼きむしゃむしゃの子ども達に目を向けた。
「ワン、ツー、スリー、フォー」
それはテンポの良い早い歌。小さい頃夢見た自分へ全速力で突っ走って行きたい。そんな歌。少し自信を失いかけたこともあったけど、そんな自分に気付いた人がそっと背中を押してくれた。頑張れば何かが見えてくる……。
カシカイタカンペより随分前向きでテンポの良さと相まって受け入れやすいじゃないか。それが僕の印象。テンポが早いので聴衆も手拍子で乗ってくれる。当然それなりの音になるので何事かと更に人が集まる。
星は引力で次第次第に星間ガスが集まって、やがて高密度になり光り出す。
僕が思い浮かべたのは図鑑のその辺と、その瞬間が今まさに目の前で展開されたということ。
夢はまだ続く、みたいな歌詞で、じゃん、とばかり曲は終わった。鋭い切れ味は格好良くもあった。
お義理では無い拍手が彼女を包んでいた。
そこまで収録して、録画停止。
「ありがとうございました」
彼女が頭を下げると、人々は立ち去り始め、否否、近づいてくる男性1名。
「あ、場所待ちですか?すぐ撤収します」
彼女は僕からスマホを受け取ると、ポケットに戻しながら言った。
「そうじゃありません。自分……」
出された名刺はこの街駅前ライブハウスの店長氏。要はスカウトである。
彼女は名刺を受け取り目を真ん丸。次いで店長氏の目線は僕へ。
「あなたマネージャーさん?」
「いえただの聴衆1号」
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(つづく)
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