【恋の小話】星の川辺で-1-
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授業中気になったというのがそもそも問題なのだが。
目を向けるといつも“うわの空”の姿というのが、それまでオレの記憶にある彼女の全て。
斜め上とか、外とか、ぼーっと眺めている眼鏡の娘。
特に国語の時間は酷かったように思う。まるでストップモーションが掛かったビデオのよう。
一度まさにその瞬間に当てられたことがあったが、彼女はまるで最初から全て知っていたようにスラスラと答えた。
でも、椅子に戻るとまた上の空。何を考えているんだろう。
知ったのは、ひょんなことから。
夏服に着替えて1ヶ月。
「智(さとし)」
帰宅早々母親に呼ばれた。中間テストの結果の話か?
「なんじゃい」
「本屋行くんでしょ?色紙(いろがみ)買ってきて。悠里(ゆうり)が短冊作るから」
月末買ってる科学雑誌。短冊作る……ああ七夕か。
「駄賃はおつりで」
千円札片手の母親に抱きついてニコニコしている。妹の悠里。幼稚園年長。オレ中2だから8年離れてる。
「おつりて10円じゃん」
「バカ、雑誌代はあんたの小遣いから出すに決まってるだろ」
なんだちくしょー。
もらった札を財布に入れて、本屋のポイントカードに、チャリンコのカギ。
部屋着はジャージなので、本屋との往復如きに外出着に着替えるのはムダ。
半袖ワイシャツでちゃりんこ漕ぎ漕ぎ。本屋へ5分。
雑誌と、そうそう頼まれた奴。
探すの面倒レジで聞け。ここでオレは間違いを犯した。
「すいません短冊ってどこですか?」
あ、違う。
「ありますよ……みなちゃんのお友達?」
オレが何か言う前に、店のおばちゃんはカウンターの下から“短冊”を出した。
タレントにサイン書いてもらう色紙を細長く切ったような奴、短歌や俳句を墨でペロペロ書く本当の“短冊”だ。
何故そんなもん売ってる?ちょっと待て。みな。みなって安達美奈。
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(つづく)
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