【恋の小話】星の生まれる場所(8)
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「私、まだホントに一人で作った歌って無いんです。さっきのは使えるかもだけど」
手にしたチラシを見せられる。新人ライブの応募要項。
“オリジナル曲であること”
カヴァー禁止。必要数5曲。
「でもこの間歌ってたあれは?」
曲は先生氏のお手本ベース。詞は友人作成。
他人のレールに乗っただけ。
「やっぱり断って……」
「まぁまぁそう慌てない」
ちなみに僕は彼女より15年ほど長く生きてる計算。
「やり方二つ。ひとつ、エントリー期限まで必死こいて考える。だめなら諦める。ふたつ、エントリーしておいて逃げ道塞ぐ。自分で自分を追い込む。大学受験はどっちのパターンだったの?」
「推薦……です」
高校はワンランク下を選び、そこで当然成績上位に来るので推薦枠ゲット。
賢い、ある意味賢いが、ぶつかった壁を越える力は身につかなかった。
「説教臭いこというの嫌いだけどさ」
僕はひとこと言って頭をボリボリ掻くと、
「歌手になりたいか!」
「なりたいです!」
強く訊いたら即答が来た。
口調だけ聞けばケンカに聞こえたかも知れぬ。応じた周囲の目線を感じる。
「じゃぁ応募しろ!……幾らでも手伝うからさ」
後半口調を変える。彼女は笑みを見せ、しかし困惑の表情に変わった。
「でも……」
「即答したってのは本音だろ。だったら諦めるのは損だと思うよ。曲は知らんが詞の方なら幾らでも手伝うから」
「え、でも巻き込んでしまうみたいで」
「すでに首に紐巻かれてる状態で何を言うか」
「あ、すいません」
そこで彼女が涙ぐんだはなぜか。
「若い娘泣かせてる悪いオッサンみたいだからやめれ」
「でも……」
笑いながら涙ぼろぼろ。
大体そういうのは誰にも言えず抱え込んでいる何かがあって、今この瞬間解放されたか指摘されたかの裏返し。
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(つづく)
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