【恋の小話】星の川辺で-6-
←前へ・次へ→
.
「あたし綺麗?」
それは親父に聞かされた“口裂け女”のセリフ。大マスクの女がこう話しかけてきて、マスクを取ると耳まで口が裂けている。
さておき、ここでオレとしてはどう反応すればいい?
回答に迷っていたら彼女の方が照れた。
「うわやだあたし何言ってんだろ」
両の手のひら広げて(じゃんけんのパーにして)、両頬ぺしぺし叩きながら背を向け、足はその場でルームランナー使っているようにじたばた。
「女の子外見じゃねーべよ。最も内面に応じて外面ににじみ出ると思うけどね。まず外面取り繕う奴にロクなのいねぇ。って親父が言ってた」
じたばたが止まった。
その足もとに見つけた物。
「そのまま動かないで」
彼女の足もと……クローバーの四つ葉がある。
オレは引き抜こうとして、躊躇した。ここまで色々と彼女の行動予想外である。さればここで抜き取ってあげるよと言えば普通は喜ぶが。
「そーっと。四つ葉のクローバー」
「うそっ!」
その時彼女が発した声は、爆発にも似た瞬発力と大きさを備え、流れを跨ぐコンクリートの橋の下で反響した。
誰かが聞けば女の子の悲鳴と勘違いされるかも。オレは慌てて周囲を見、その心配が無いことを確認した。
確認して見下ろすと彼女は……誇張じゃ無いぞ、カエルみたいな姿勢で手足折り曲げ、這い蹲って四つ葉をしげしげ。
「初めて見た!」
「まぁそういう人多いだろうね」
「高台君は?」
「ここに来るの夜だから意識したことはないよ」
「夜?」
彼女はカエルの姿勢で首だけ持ち上げて訊いてきた。
「ああ、天体望遠鏡ひろげに」
買ってきた雑誌の後ろの方、天文台の学長の連載記事。今月の星空見所と星座の逸話を見せる。
彼女は少しの間目を走らせ。
「赤道儀とかセットできるわけ?極軸合わせとか出来るわけ?追尾しちゃうわけ?」
「そりゃ、まぁ」
.
(つづく)
| 固定リンク
「小説」カテゴリの記事
- 【理絵子の夜話】空き教室の理由 -023-(2024.10.05)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -13-(2024.10.02)
- 【理絵子の夜話】空き教室の理由 -022-(2024.09.28)
- 【理絵子の夜話】空き教室の理由 -021-(2024.09.21)
- 【魔法少女レムリアシリーズ】アルカナの娘 -12-(2024.09.18)
「小説・恋の小話」カテゴリの記事
- 【恋の小話】星の川辺で-20-完結(2013.10.26)
- 【恋の小話】星の川辺で-19-(2013.10.19)
- 【恋の小話】星の川辺で-18-(2013.10.12)
- 【恋の小話】星の川辺で-16-(2013.09.28)
- 【恋の小話】星の川辺で-15-(2013.09.21)
コメント