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【恋の小話】星の生まれる場所(11)

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「そういえば……」
 こっちの素性を喋る番。工場の製造ラインで不良が作られないか確認するのが仕事。そろそろ独身寮を追い出されるので住処と食い物どうしようか。
「独身……」
「だよ。おっさんくさいだろ?」
「いいえ若く見えます。彼女さんとか」
「ありがとさん。彼女いてこの状況見られたら修羅場だぜ」
 すると急に意識したのか彼女は真っ赤になった。
「ファン1号ということで」
 彼女が言葉に詰まる前に先んじてそう言った。ぶっちゃけそう言うには乏しいが事実上応援者なのは確かだ。
「あ、はい、ありがとうございます」
 自分の方が少し早足らしいので、ゆっくり目に歩いて行く。
 図書館のチェックイン。カードをかざしてゲートを通る。同行者は書類を書かされる。
「あの……」
 オイデオイデされて覗き込むと“入館者との関係”。どう書こうかというところか。
「友人、で良くね?」
「あ、そうですね。はい」
 閲覧のみですと念を押されて古典のフロアは2階。車いすのおばあさんがいたのでエレベータで一緒にご案内。
「あら、お父さんと図書館?」
 ウィッグに紫のメッシュが入ったおばあさんは首をひねって彼女に訊いた。
「あ、いえ……」
「な?オッサンくさく見えるって言ったろ?彼女は歌手のタマゴなんですよ。で、相談役と言うことで」
「あら、歌手なの?どんなの歌ってらっしゃるの?」
「えと、聞いてる人が夢や希望が持てたらいいなって」
「そう。素敵だわ。頑張ってね」
 ちーん、着床。
 これもまた彼女の本音だと僕は思った。
 日常生活や単純な愛だ恋だをだらだら並べる歌が流行りだしてどのくらい経つだろう。
 時代劇を探しにというおばあさんと別れ、目指したのは俳句短歌。
「座って」
 閲覧席に座らせて心当たりを幾らか持ってくる。現代仮名遣いの口語体で、渋いの。
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(つづく)

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