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【恋の小話】星の生まれる場所(15)

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「怒られると思ったんですよ。そしたら、お前の人生だからお前が決めろって。親として必要なことはしたつもりだって。大学を選ぶ時点で、何を身に付けて何を仕事にするかの選択は始まってるんだって。その選択肢に歌があるならそれだけの話だって」
 雄弁とさえ言える彼女の物言いは作詞の語彙に困る娘のそれでは無かった。
 が、そこで彼女の目から涙が一筋。
「でも、本当にダメだと思ったら帰ってこいって。それでも親だからって」
 涙をぬぐう。
「まだ子供だなって思いました。そこで『帰る必要ない』って言えなかったんだから。で、自分、大人ぶってるだけだって」
「卑下することないでしょ。20歳で今日から大人ですって言われていきなり大人の振るまいが出来る人はいない。他の人の模倣や経験による修正が徐々に大人に変えて行く。毎日単位じゃ判らないこと」
 僕はそこで一息置いた。
「でもね、いなくなって帰ってきた君は少女と言うより若い女性だ。女の子と呼ぶには失礼な、ね」
 背後で拍手。ピラミディオンの前が空いた。
「セッティングお願いします」
「請け負った」
 アンプとショルキー、ヘッドセット。
 少し音出しして配合比率を調整。
 譜面台にフライヤーを挟む。件の新人ライブの日程が入れてある。ショルキー構えた自画撮り写真は僅かな微笑みに自信が見える。
「みなさんこんばんはー!」
 元気に言ってキーボードをぱらりぱらりら。真正面特等席で僕が拍手。
 通行人幾らか目に止まったところで今度新人ライブに出演する旨自己紹介。
 フライヤーを手にした若い男性有り。
「出来たばかりの曲を今日ここで一番に歌います。聞いて下さい」
 私が歌を歌うのは、という曲。地味だ普通だと言われて埋もれてる気がした。だから誰もやらないことをやろうとした。選んだのが歌だった。聞いて欲しいから歌います。好きか嫌いかはその後でいい……。ザッとそんな内容。
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(つづく)

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