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【恋の小話】星の生まれる場所(16)

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 等身大、あるがまま、それは当然、違和感や不自然無し。いいじゃねぇか。
 終わって拍手2名。僕と、そのフライヤーを手にした若い男性。
 その男性、僕が拍手したと判るや近づいてきた。
「あやなの事知ってるんですか?」
「まぁ、たい焼き作る歌手のタマゴって聞きましてね」
「どうです?」
「悪くないと思いますよ」
 すると、男性はあやなちゃんに親指を立てて見せた。いい仕事“グッジョブ”の意だ。
 知り合いか。
「どうもありがとう。じゃぁ2曲目行きます」
 帰りの切符は買ってない。信じて選んだ道は信じて進もう。困難があっても乗り越えられると考えたのだから。自分に責任があるんだから。自分に責任すら取れないのに、いつかあなたと一緒に暮らすなんて出来ない。
 恋歌。しかも結婚を意識した。
 ちょっとドキッとした。サクラでなく文句なく拍手。
「実は今の歌は……私の大事な人を意識して作りました。幼なじみで、私が歌手になると言ってもずっと応援してくれた人、今ここにいるんですけどね」
 彼女は、僕の傍ら、男性を照れくさそうに手で示した。
 えっ。
「そして今日の最後は、私の背中を押してくれた、とあるお店のお客さんに贈ります。
『風でカンペが飛ばされて』」
 風で飛ばされた歌詞書いたカンペ。
 みんな私を褒めたけど、その人はそうじゃなかった。
 いつも私を叱ってた、幼い記憶のお兄ちゃん。
 一人になって忘れていた。
 あなたのおかげで私は気付いた。
 忘れていた大事に気が付いた。
 だから大事を言葉にして。
 私は勢い付けて飛び出そうと思う。
 私を叱るあなたを胸に。
 ……そんな歌。
 僕はハッキリと悟った。
 それこそは僕であり、彼女は自分と出会って吸収した何かを糧として加速し、僕の影響を離脱して行くのだ。
 スウィング・バイだ。例えば木星のような大きな星に近づいた小惑星。引力によって加速するが、その加速の結果、遠心力が大きくなり、引力を振り切って遠ざかる。
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(次回・最終回)

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