【大人向けの童話】どくろトンネル-3-
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タカシ達は待つことなく加速して行く。サトルはギブアップして自転車を降りた。
「ちくしょー」
ひょっとして騙された、というか、嫌がらせされてるのか?とサトルは思う。
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-お前頭いいしな
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イヤミみたいに良く言われる。
道路は本格的に峠道の様相を呈し、そこからはつづら折り。
何でこんなと思いながら自転車を押して歩く。夕刻と言うには早いギラギラ西陽、アスファルトの陽炎、どこまでも続く雑木林、セミの鳴き声。
もうタカシたちの声も聞こえなくなった。
一つ急カーブを曲がる。屋根付きベンチ付きのバス停。
隣町から来ていたバスは、沿岸が津波でやられて客がゼロ。廃止になった。
なのに、おばあさん、と書いちゃっていいだろう。和服姿で白髪の老年女性。
廃止を知らないに相違ない。タカシたちは気付かなかったのか、無視したのか。
サトルはタカシ達を呼ぼうとし、とっくに聞こえないだろうと諦めた。
「あのー、ここのバス、震災で無くなりましたけど……」
「え?そうなのかい?道理で来ないと思ったよ」
時刻表の上には“廃止”の張り紙があったのだが、セロテープで留めてあっただけらしく、テープの切れっ端だけ残っている。
「その……どちらまで?ぼく、タクシーか何か呼んできましょうか?」
「大丈夫よ。それなら歩くまでのこと。旦那のお墓参りに行くところでね」
新聞紙にくるまれた花と、紫の布(袱紗、なのだがサトルの語彙にその語はない)に包まれた箱。何かお供え物だろうか。
そういえば、お盆だ。
ただ。
「お墓ってどの辺ですか?」
確かこの先に墓地とか無いはず。
「ああ、旦那が事故で死んだ場所に行くのよ。上にトンネルがあるでしょ」
それこそどくろトンネル。
なら、どのみち目的地。
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(つづく)
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