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【大人向けの童話】どくろトンネル-5-

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「もうすぐね」
 傾いた日差しに照らされた表情が輝いて見える。女の人って心ときめくと年齢まで変わって見えるのかとサトルは思う。
 ガサガサ歩いて少し。トンネルが貫く山に沿って地面が盛り上がり、木が生え。
 散らばるレンガ。崖崩れの痕跡。変に斜めの方向に伸びて枯れてる沢山の広葉樹。
 サトルは気付いた。そのレンガは、角が取れたり色あせたりして古そうな反面、そうでない部分や、割れてる所はまだ新品のよう。
 その理由。
「これは……何があったのかしら」
 動揺するようなおばあさん。でも、サトルは理由の推理が出来た。
 確信を持って。
「この間の地震です」
「震災……」
 東北地方太平洋沖地震。マグニチュード9.0。
 千年に一度というこの超巨大地震で、この地域は震度6弱の揺れに見舞われた。
 サトルの学校も体育館への連絡通路にヒビが入ってずれ動き、給食センターが動かないので3学期末まで短縮授業だった。
「で、崩れたんですよ。でも。こんなレンガのなんかあったっけ」
 すると、おばあさんは、ぺたりと正座の形に座り込んだ。
「ああ大丈夫ですか」
 熱中症か……そうではなかった。
「ここはね。昔、日本軍の秘密工場だったんだよ……」
 昭和19年。1944年。
 太平洋戦争で敗色濃厚となった日本にはアメリカ軍機が頻繁に飛来、機銃掃射や爆撃など、軍人、軍関係施設のみならず、一般市民までもがその犠牲になるようになっていた。
 そこで、軍は必要な物資を作る工場を地下や山中に移設した。トンネルを掘削し、その中に設備を持ち込んで操業したのである。
「ここも、そうした工場の一つ。でもね」
 夜間操業中の煙を見つけられ爆撃。旦那さんはその際に生き埋めになったという。
 トンネルは埋没したが工場の復旧が優先で捜索されること無く再建、そのまま戦争終了後、県境越えトンネルに作り替えられた。
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(つづく)

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