【大人向けの童話】どくろトンネル-6-
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“どくろ”の片方はその工場の入り口に相当する側。幽霊の噂もこちら。但し、つぶれた理由は古くてレンガだったから、と聞かされていた。工場とは聞いてない。ちなみに“肝試し”はその入口から入り、潰れた部分まで行って戻るだけ。
「ここ、外側がこうやって崩れて、当時のレンガが出てること、誰も知らないんじゃないでしょうか。聞きませんから」
サトルは言った。震災の後はまず水、そして食料、ガスや水道の復旧。
70年前のトンネル残骸など気にも掛けないだろう。
ひょっとしたら、自分達が初めて気付いたんじゃないだろうか。
「大体、工場のこと自体、今初めて知りました。町の歴史にも書いてなかったと思います」
70年。小学生の自分にとって長い、長い、時間。人生そのものに近い時間。
ここで、死んでしまってそのまま。
戦災で亡くなって。戦災で忘れ去られて。
震災で再び出てきて。震災で……
また忘れたままでいいのか?
サトルはレンガを踏まないよう気をつけながら、奥の方へ、山の斜面の方へ分け入った。山崩れはどうやら埋もれた工場を破壊しながら発生したようである。そりゃ70年前の穴が開いていて隙間だらけ。大きな揺れが崩れるきっかけになっておかしくない。
クワガタ取りと言ってあるのでペンライトを持ってきている。
「ぼく、何をしてるの?」
「何か、手がかりというか、遺品、でしたっけ、あればと思って」
探してあげなくちゃいけない。それはサトルが抱いた使命感。
「そんな、いいのよ。どうせ」
おばあさんが立ち上がったその時。
サトルは、見つけた。
「おかあさん!」
思わず出た言葉。そして、
「これ、おとうさん、ですよ多分」
女性は、和服を着たその女性は、吸い寄せられるように立ち上がり、そして歩いて来、サトルのライトが照らすその先を見た。
人の骨であった。
軍のものか、ぼろぼろになった茶色い服と、傍らの頭の骨。
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(つづく)
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