【恋の小話】星の川辺で-19-
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救命救急という言葉が頭をよぎる。呼吸を確認して……心臓マッサージ。
「お兄ちゃん!お姉ちゃんは?」
悠里が足をジタバタさせる。
「大丈夫だ」
オレは自分自身言い聞かせるように声に出し、草むらに彼女を横たえようとした。
呼吸の有無は鼻の所に耳元を近づけて。
「お姫様にちゅーするの?」
悠里の無邪気に、バカ!と答えようとしたが、
少なくともこの抱きかかえて感じる身体の動き、伸縮は呼吸のそれだし、なら多分心臓も動いてる。
「美奈ちゃん」
王子様のキッス、じゃないが、オレは呼んでみた。
少なくともインパクトはあるからだ。
キスは昼したし(おいおい)。
果たして、小刻みな震えは収まった。
が、目を開ける気配はない。
失神しているのともどうも違うようである。なぜなら失神なら力が抜けてぐにゃぐにゃになるからだ。何らか過敏な意識反応を起こしているのだろう。トリップしているという奴だ。
などと思いながら、女の子の顔ここまで間近でじろじろ眺めたのは初めてだと気付く。いわゆる美人でも可愛いでもないが、何だかんだで大和撫子である。ただ、少し青白いような肌の色は、苦労してるというか寝不足なのではないか。
「ひとりでずっと抱え込んでいたか」
呟いたら、彼女はゆっくり目を開けた。
そして涙ぼろぼろ流し始め、ぼろぼろ流しながらオレの腕の中にあった。
「お兄ちゃん泣かせてる!」
「ううん、違うよ」
囃し立てるような悠里の物言いに、彼女は静かに一言。
身を起こし、クローバーの上に体育座り。
更に三つ編みを解いてしまう。さらりと広がって流れ、彼女の横顔を覆い隠す。……隠すことが目的か。
するとまるで別人の体である。静謐さをたたえた、年齢相応以上大人びた若い娘の肖像をオレは見ている。
「星虹(せいこう)は亜光速だと君が言い星虹の如く人生を思う」
「オレはそばから離れんよ」
これでいいだろう。
(次回・最終回)
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