【大人向けの童話】どくろトンネル-8-終
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墨で書かれた便箋であって、崩し字でサトルには読めなかった。ただ、表題の「遺書」本文中の「未来」、そして「技術」だけは読めた。そこに髪の毛が数本挟んである。
すると、おまわりさんは、気を付け、をして、帽子を胸にし、深々とお辞儀した。
「承りました。旦那様におかれましては長い長い間のおつとめ大変ご苦労様でございます。こちら、一旦『行旅死亡人』(こうりょしぼうにん)として書類上の手続きをさせていただき、その事後対応という形でお帰りいただくことになろうかと思いますが、それでよろしいですか?……その、こういう言い方はまことに申し上げにくいのですが、いわゆる検死という手続きを行う必要がありまして」
「ええ、それでよろしゅうございます。法律に則り粛々と手続きいただいて構いません」
「判りました。では所轄部門へ連絡を取ります……ええっと、悟君は、じゃぁ、この友達と帰れるかな?」
「はい、もちろんです。僕のためにお手を煩わせてしまったようで申し訳ありません」
「構わんよ。それが自分の仕事だからね」
家へ連絡し、サトル達は橘さん、警察官と別れて細い道を戻り始めた。
もう日が落ちる。先頭に立って草むらをサクサク歩く。
「あのさぁ……」
後ろから、タカシが声を出す。
何があったのか教えてくれ、と言うので、サトルはトンネル工場のことを話して聞かせた。
「爆撃を受けた後、死んだ人を探すとかしないで、そのままトンネルにしちゃったのさ。で、その時埋められた部分が地震で崩れて、あの人の旦那さんがようやく見つかったんだよ」
サトルは仲間達の足音が聞こえないことに気が付き、振り返った。
3人少し離れて立ち止まっている。
「どうしたんだよ」
サトルが戻ると3人は涙ぼろぼろ流して震えている。まるで溺れた子猫みたいだ。
「見たんだよ、オレ達」
「何が」
「兵隊。トンネルでさ『ああ、やっと帰れる』って男の兵隊が歩いて行って、消えたんだ」
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どくろトンネル/終
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