アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【37】
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ジェフ氏はお上手を言い、彼女の荷物を手にし、主なき部屋の花瓶を引き上げる。
荷物を引き、花を片手に通路を先導。
「また、乗りに来ますから」
彼女はジェフ氏の背中に言った。
「え……」
それはジェフ氏に予想外だったようで、立ち止まって目をきょとん。
さもあろう。この列車は一般観光客向けに走行している他の〝オリエント急行〟と性格が異なる。乗車するには列車丸ごとチャーターする必要がある。
「必ず。王女の権限で」
レムリアは付け加えた。
するとジェフ氏が笑顔に変わる。
「……あ、はい。是非に。その際は列車長はジェフでとご指定下さい」
「ええもちろん」
車端ドア前に二人が達し、列車はブレーキを軽くきしらせ、そして、ドアが赤絨毯の前にピタリと止まる。
「ほら、列車もあなた様とのお別れを泣いて悲しんでいますよ」
ジェフ氏のお上手を聞きながら、楕円のドアガラスの向こうでシルクハットの男性が恭しく一礼。
王族を運び、送り、迎える。こういうのが保守本流〝オリエント急行の仕事〟なのだろう。ジェフ氏が金ノブのドアを開き、荷物を持って先に降りる。
プラットホームのシルクハットに敬礼。
「リバイバル・オステンデ・ウィーン・オリエントエクスプレス列車長ジェフ・サマーサイドであります。メディア・ボレアリス・アルフェラッツ王女殿下にあらせられましては、午前10時43分、定刻通りコルキス王国国際駅へ到着であります。こちらが殿下のお手荷物であります」
「ご苦労様でした。これより先王宮までの案内はわたくしハロルド・シュワルツ・フライヴが承ります」
シルクハットの紳士ハロルド氏はやんわりしたキングス・イングリッシュで一礼し、荷物を引き受けた。
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(つづく)
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