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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【16】

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 軽いショックに、ボトルの中の水が揺れ、薄紅の花びらが微笑むように動く。
 ぐいぐいとリズミカルな力が加えられ、列車はホームから動き出し加速する。
 人々が対向ホームから手を振り、カメラを向け、列車を眺める。
 ドームの下から陽光へ向け走り出す列車。
 彼女はハンドルを回す。窓は下がって開き、上方から12月の風と共に、“窯”の匂いが入り込む。
 窓を開けた理由……これが大きな旅立ちと感じたから。行く先の光に目を向けたいと思ったから。
「2号車の黒髪の彼女!こっちむいて!」
 大きな声に彼女は目を向ける。
 風になびく髪を抑え、ホーム端のカメラ群へ顔を向ける。
「行ってらっしゃい!」
 見知らぬ見送りに思わず微笑む。
 列車はホームから陽光の高架線路へ走り出る。
 背後でノック音。
 ジェフ氏だ。扉を開けるとポットとカップ。
「煙が入ってきませんか?途中ユトレヒトまでは蒸気機関車です。あ、それともお部屋が暑すぎましたか?」
「いえ……」
 彼女は窓を閉め、ソファに座を戻した。
 欧州人種の大人を目して設計されたソファに、黒い瞳で小柄な彼女はさながら人形のよう。
「こんな心ときめくお客様は初めてです。お茶をどうぞ。わたくしの説明が終わり次第、すぐに注いでよろしいかと」
 ジェフ氏はそんな言い回しをすると、ジャスミンの香り漂う白いティーポットとカップを、窓際テーブルにそっと置いた。
 まず、運転時刻の説明。コルキス着は翌日午前。
 更に部屋の構造と備品について。入口ドア脇のラウンドした柱の様な部分は扉で、左右に開くと三面鏡と洗面台。洗面台は水とお湯が出、石けんも。なお、彼女が乗車したこの寝台車はLx型と呼称される。デラックス……du luxeの意だ。1人用個室を10室備えた定員10名。つまり、1輛で運ぶ乗客は10人だけ。
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(つづく)

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