アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【20】
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欧州の冬の日暮れは早い。
陽光の消えたドイツのケルンで、オステンデ発の編成を連結したチャーター便オリエント急行は、10輛編成となった。
このヴィンテージな客車達が製造された1920~30年代は、機関車の能力もあって5~6輛がせいぜいだったようだが、現代の強力な機関車は10輛に連ねても平然と牽引する。個々が美しく仕上げられている車輛だけに、連ねることにより、その美しさは尚一層強調され、長大な編成をなした姿は壮大にして壮麗と言えた。連なって月明かりの線路の上を行く姿はさながら舞い踊るかの如くであり、その様をして“青きプリマドンナ”と呼ばれることもある。
斯くして、ケルンのプラットホームでは連結と給水作業中にライトアップ演出がなされ、列車は夥しい数のストロボ閃光に彩られ、尚一層青く、そして金色の装飾はブリリアントに、まさに光り輝いた。
やがて、薄い橙に下回り赤色のツートンカラーをまとった流線型電気機関車が現れて先頭に連結。ヘッドライトを点らせて汽笛一声、歓声と閃光に見送られ列車はケルンを発つ。ドイツとオリエント急行には、第1次大戦とヒトラーに関わり浅からぬ因縁があるのだが、今こうして眼差しに包まれる様は、過去は別世界と言わんばかりだ。列車はいや増す流星雨のような夥しい閃光を浴びつつ極めてジェントルにホームを離れ、線路の入り組んだ構内を長い身くねらせゆっくり横切り、月の照らす二条の鉄路へと躍り出る。それは大空に舞い上がった鳥の如くであり、目覚めたように加速を開始する。次の停車は深夜に国境を越え、オーストリアのザルツブルク。
ディナータイム。
ココン、コンというリズミカルなドアノックに、レムリアは準備できましたと応じた。
解錠してドアを開くとジェフ氏。
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(つづく)
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