アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【77】
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思わず唇を噛む。勢いに任せたはいいが、そこまで考えてなかった。
〈とりあえずどなたかに託せませんか?結局、この少女はそこへ戻るのでしょう?〉
それはセレネのテレパシー。
「とりあえず東京へ」
レムリアは言った。ただ、それは、名を知ってる都市であり、人が多そう、というだけ。
とはいえ、一千万都市にこんなもの下ろす?
イヤホンから声。
『私だ。郊外の人気(ひとけ)の少ない公園か何かにまずは下ろせ』
大都会東京。
但し行政区分〝都〟としての土地は東西に延びており、いわゆる23区より西、多摩地域に向かえば、ビル群よりも住宅が、さらに武蔵野の面影を残す丘陵地帯となり、田畑も見られる。最西端は関東山地の一部に含まれ、冬季は雪に閉ざされる地域もある。
『ここはどうだ。総合病院がそばにあると出ているが』
アルフォンススの声に保持ユニット内部、液晶モニタを見る。
船外カメラ画像。航空写真のアングルであり、深夜であるため街灯がポツポツ映っている程度。地図が重ねられてあり、住宅街裏手の草っぱらの様相。
日本時間午前1時50分。
『誰かいるようです』
セレネが言ってカメラがズーム。冬の真夜中、野原の真ん中に人がいる。日本はそういう国なのか。
高感度モードで捉えた姿は、寝袋から顔だけ出して、仰向けに寝そべっている眼鏡の青年であった。
ただ、そこに居住・睡眠というわけではなさそうである。手のひらサイズの機械を手にし、口元に近づけ、何やら喋る。
『流星観測ですね』
セレネが、言った。
テレパシーの結論であろう、この緊張した状況にあまり場違いなその言葉は、レムリアに落雷にも似た衝撃と動揺を与えた。
深夜の屋外に人がいること。それは、夜を共に過ごす存在がある人か、選択の余地なき孤独の象徴か、レムリアの認識はそのどちらかであった。
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(つづく)
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