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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【15】

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 扉は既に開かれており、マホガニーの重厚な〝コンパクト・ロビー〟がそこに日射しを受けてある。ハンガーの掛かった壁を背にして配された大振りのソファ。ゴブラン織りのそれは、豪華のみならず力強さと威厳を備え、豪壮な玉座、と表現すれば近いか。窓際のテーブルにはミネラルウォーターのボトルがアイスバケットで冷えており、ほのかなピンクの花が花瓶に一輪。クリスマスローズ。
 列車に生花。
「ヘレボルス・オリエンタリス(Helleborus orientalis)ですよ」
 花を覗き込む彼女に、背後でジェフ氏が言い、衣装ケースをキャビン上部の荷棚へ。
 オリエント急行に学名オリエンタリス……もちろん、小さな洒落。
「お荷物は必要になったらわたくしまでお申し付け下さい。それと花の姫君、ウェルカムドリンクを用意したいのですが如何致しましょう。コーヒー、紅茶、ジュース類もございますが。東洋のお茶の類も多少」
「いえ……この水で充分ですよ」
「わたくしからのサービスです。殿下の丁重なお心配りに感銘を受けました」
 そこまで言われると逆に断るのも気が引ける。
「東洋のお茶にはどんなのが?」
 だったらその辺。この地にいると滅多に飲めるモノではない。
 問いかけに、ジェフ氏は日本茶ウーロン茶ジャスミンティ、と答えた。
 ジャスミン。
 この洒落た空間には一番マッチするのではないか。
「承知しました。すぐ用意して参ります。お持ちした際に、こちら部屋の設備についてご説明いたしますので、お座りになってお待ち下さい」
「はい」
 ソファに腰を下ろし、窓の下にあるハンドルを回すと窓が開くらしい……と、判じたところで、長々とした汽笛が鳴った。
 発車である。
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(つづく)

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