アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【104】
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浮かんできた人々は、セレネとレムリアの認識に一様に動揺を示した。二人だけがコミュニケーション可能であること。その故が……死であること。
一般に死した肉体は生命の特質を失って崩壊して行くが、このプールに置いては、崩壊の元となるバクテリアが一切存在しないため、亡くなった身体には一切変質が生じない。
かのチェルノブイリも、中心部では当時の作業員がそのような状況に置かれていると推察される。レムリアは業界雑誌の放射線特集の記述を思い出した。ちなみに象の足と書いたが、それは同事故でコンクリートが溶解し、象の足のような形で再固着した状況を捉えた写真による。
コンクリートが溶け出す温度は、摂氏1000度と少々。絶対温度に直すと1300ケルビンほど。
『900ケルビンを突破した。船長、どうする』
それは今、船を包む光の筒の外側が、応じた高温になっていることを示した。
コンクリートが溶解すれば、水は一気に失われ、原子爆弾状態になる(※)。
船長は断を下さない。迷っていると判る。船が脱出した後、原子爆弾が炸裂する。それは許されることなのか。
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-逃げて。
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多くの声が二人に示唆した。
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-私たちが経験した、頭の中に光がキラキラ見える状態と、同じ状態が起きようとしている。
-あなた方の言うように、私たちがその結果死んだのであれば、次はあなた方が死んでしまうことになる。
-私たちと同じ経験を、あなた方が、なさらぬよう。
-この村をこのようにした陰謀が、これ以上発揮されぬよう。
-あなた方の躊躇はわかる。しかし、既に神の元にある我々のために、あなたがたや、より多くの人々が、同じように命を落とすことは我々の本意ではない。
-逃げて。神には我々から祈りを捧げる。
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『船長。行きましょう』
セレネが進言した。
『1070ケルビン。限界だ』
シュレーター。
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(つづく…※は章末に解説を追加した)
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