アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【6】
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アムステルダム中央駅。
トラムで降り立つ駅前広場には、まず目立つレンガ駅舎の偉容。
左右に堂々と翼を広げる、ゴシック様式3階建て。なのだが、“遊園地のお城”と言った方が、雰囲気の把握には、とりわけ日本人向けには判りやすいかも知れぬ。ちなみにひところ、東京駅丸の内口駅舎のモデルと言われたこともあった。なるほど一見そう映ってもおかしくはないであろうが、建築史の観点からは、否定的な見方が多いようだ。
列車の出発は14時。リーフレットには30分前から乗車可能とあった。現在時刻はその“30分前”に少々、余裕がある。
駅舎は右手が入口専用になっており、そちらへ回って人波に乗り、中へ入る。コンコースは豪壮な柱が並び梁が弧を描く広い空間。オープンカフェのテーブルセットが並び、出札窓口には荷物を手にした人々の列。上方には電光式の出発案内があって、国内外の行き先がズラリと並ぶ。15分後にパリ行きの超特急が出るので、人々の多くはそれであろう。プラットホームは2階。そのパリへ向かう瀟洒なワインレッドの列車は見えない。
そしてオリエント急行は電光案内にも表示がない。チャーター便を出しても仕方がないからだろうが、どのホームから出るのか判らないのは困る。プラットホームまでは特段切符の類が無くても入れるのだが、うろうろして不測の事態に遭うのは御免だ。ちなみに少し前まで、この駅の治安の悪さは世界的にも有名な程であった。
誰か訊いた方が良い。そういう経緯から警備担当が増えたはず……と見回すと、目の前でどこぞの奥様が制帽姿のポーター(小荷物運搬業)氏にチップを渡しているところ。
同氏が日焼け顔に笑みを刻み、奥様を送り出したところで声を掛ける。
「すいません、特別運転のオリエント急行の乗り場は」
「これはこれはお嬢さん。女の子で鉄道好きとは珍しい。撮影用には4番ホームが開放されてるよ」
「いえ、あの、乗る……んですが」
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(つづく)
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