アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【35】
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「ではキームゼーの病院へ送りたく思います。レターセットをお願いできますか」
ちょっと澄まして。
「かしこまりました」
「すぐお持ちします」
テーブルでオリエンタリスに見つめられながら、一筆したためて蝋を垂らし、アルフェラッツの印で封じる。これでオリエント急行発の消印が押されて病院へ届く。
「これを列車発で」
「確かにお預かりいたします」
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-6-
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夜明け前に列車はザルツブルクへと到着した。
臨時列車である故の時間調整なのだが、生かしてそのまま駅で朝を迎えようという演出である。ドイツで眠りにつき、目覚めるとモーツァルトの生まれた街というわけだ。乗客はホテルの朝よろしく街並を眺めながら車中で朝食。供されるのは街の店から列車に届いた出来たてパンだ。ここからは下車客があり、降りて観光する組と、先へ乗る組とに分かれる。ちなみに、彼女の乗る2号車は彼女のみが乗客であって、乗り降りの動きはない。但し、彼女は、Lx寝台車が1輛丸ごと彼女の占有であることを知らない。
観光組が降りた頃、ドアがノックされてジェフ氏。
「おはようございます。朝食です。レストランクルーの賄いですが、スクランブルエッグをお付けしました」
焼きたてパンに濃いコーヒー。コンチネンタル・ブレックファスト。
コンパートメントの小さなテーブルは運ばれたプレートとカップで一杯になり、ヘレボルス・オリエンタリスは洗面台へ一旦避難。
観光組に見送られて列車はザルツブルクを離れ、ドナウ川に沿ってウィーンへ向かう。朝食の片付けとベッド解体の間、サロン車に顔を出す。
ロシアンティーを頂きながら、いろんな国の人たちとお喋り。勿論、姫としてのガイコーで同じようなことはするのだが、フランクの体でも実質フォーマルなのがコッカ間のやりとり。対して。
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(つづく)
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