アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【18】
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小駅を通過する。
彼女は気付いて立ち上がり、車窓に顔を付けて手を振る。
それはホームで手を振るたくさんの子ども達。先月訪れた孤児院の子ども達。
彼女は毎週末、列車で行って帰れる範囲で、孤児院や小児病棟を訪問して“楽しんで”もらっている。追って“ホスピタルクラウン”として日本でも知られるようになる活動である。手品だけはやたらと得意なので、それを生かして、という次第。
その時の笑顔と、残像に見るホームの笑顔と一致を見、彼女は安堵の笑みを作る。みんな元気そうだ。
と、同時に、それを眺める自分の立場に後ろめたさを覚える。今いるここは、世界最高とされる列車のキャビン。
同じチャーターならみんなを招いて……。
いや、そういう問題ではない。
贅沢な部屋や、おもてなしよりも、みんなが欲しいのは。
家族。本当の父さん母さん。
すると、列車の揺れにヘレボルス・オリエンタリスがくるりと動き、その小さな花がまるでじっと自分を見つめているよう。
『そんな風に考えないで』
「えっ?」
ひとりごちる。もちろん、花が口を聞くわけがない。招待状、女王様からの文言にあったこれを思い出したからであろう。
『道中は、是非楽しんできてくださいね。あなたの知っている過酷な経験こそは、これからのわたくし達に必要となるもの』
意味深な言い回しの裏にあるのは多分、『列車に乗ったら最後、元には戻れない』。
うんそう、だから多分、自分、出発する時前だけを見た。
それに、確かに折角の最上級列車なのだ。金輪際乗れないかも知れないし、遠慮してしまうのは女王様の意に沿わないであろう。
彼女は小さく笑い、ティーポットのお茶をつぎ足し、サービスというプチケーキに銀のフォークを載せ、さて、と車窓に目を向けた。考えておこうと思って、今の今まで決め切れていないことがあった。
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(つづく)
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