アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【76】
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「この子は日本の子です。届けます」
レムリアは言った。点滴が出来る。その時間で日本まで行き着けてしまうのだ。
だったら、やってしまえ。
そばで緊急自動車のサイレンが聞こえ、シスターのひとりが医者到着の由。
「判りました魔女さん」
孤児院長のシスターは言った。
「この子達は私たちが責任を持って。その日本の子をあなたに託します」
「ありがとうございます。お願いします。ではまた」
レムリアは挨拶しながら点滴作業の準備をする。展開された保持ユニットが閉じて行く。
「神のご加護を」
「ええ、子ども達が、ここに来られたのは、多分」
『状況は聞いた。発進する』
アルフォンススの声。
「お願いします。風は控えめに、目的地は日本」
『了解。シュレーターできるか?』
『クローラ逆進起動。浮上と同時に光子推進に切り替える。加速度上限3Gにセット。保持ユニットは衝撃に注意』
3Gはジェット旅客機の離陸時加速のレベルである。
「了解」
エレクトロニクスを格納した〝影〟が動く。
教会庭先から道へ向かって一陣の風が吹き出し、影が地を離れる。
かすめ行くほうき星のように光の帯が形成され、何かがその中を駆け抜けて去る。
船は教会建物に暴風が直撃するのを避けるため、バックする形で一瞬だけ風を噴いて宙に浮き、即座に光子ロケットに切り替え、東方に去った。
形成された光の帯が粉となり広がり、散って消えて行く。
入れ違いに、教会に何台もの救急車が到着し始める。
その時点でアルゴ号はロシア領空高度15万。球面上の2点間最短経路を大圏コースというが、それに則った針路である。欧州の夕暮れに対し深夜帯。
『日本のどこだ』
シュレーターが訊いた。
「え……」
訊かれて気付く。この平和な国には平和の故にEFMMで来たことはなく、電話一本の病院や知り合い等があるわけではない。
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(つづく)
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