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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【25】

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「かしこまりました。殿下、今宵は当レストランへようこそ。お席はこちらです」
 チーフはレストラン車の奥を手で示し、彼女を誘った。
 再度注目を受けて車内を移動して行く。食器の用意された空いたテーブルは幾つかあるが、案内されたのはそれらをパスして最も奥、一目でルネ・ラリックと判るガラスパネルで仕切られたコンパートメントスペース。なお、こうした造作は本来は贅沢な一等座席車であるプルマン車(Pullman)のものだ。一部ホテルにはサロンやラウンジにレストランから食事を運ぶサービスを行っているが、その列車版と言って良い。この列車では、プルマン車をそのままレストランカーに使用している。
「お座り下さい」
 チーフ氏は椅子を引いた。
「ありがとう」
 腰を下ろす。区分けされた中というのは文字通り特別扱いであって気が引けるが、列車側の都合もあろう。
「今夜のメニューになっております」
 フレンチフルコース。
 意図せず表情が硬くなってしまう。その日の食事にすら困窮する子ども達の顔がよぎる。
 チーフは彼女の耳元に顔を寄せ。
「殿下が贅沢なお食事に抵抗をお持ちとのことは承っております。しかし私どもと致しましても、粗末な食事をお出しするわけには参りません。そこで質素にと考え、100年前、この列車の運転開始当初のメニューを用意いたしました」
 彼女は思わず目を見開いた。
「お気遣いさせてしまって申し訳ありません」
「とんでもない。だからこそ私どもの腕の見せ所です。さて先ほどジェフより単品料理をお一つお好みでと密かに聞きました。どうぞカルトからお選び下さい」
 プリンセスだから、と食事を奢られるのも気が引けるが、断ったらジェフ氏のこと「おお耐え難きショック」とか言って「死んでしまう」だろう。大体、密かに丸聞こえだ。
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(つづく)

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