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2013年11月14日 (木)

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【2】

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 自室に入る。ちょうつがいの錆びかけた鉄ドアを閉め、灯りを付ける。無機な白い蛍光灯だが、それでもすっかり冷え切った部屋を甦らせるような印象を与える。
 とはいえ、灯火が照らしたその部屋は、女の子の居室としては地味である。部屋割りはリビングダイニングと、そのLDに唯一ひらいたドア、バスルームだけ。リビングの調度はガラス戸の食器棚と、円い小さなテーブルと、窓際のベッドと、本棚と、クローゼット。
 本棚の上には分厚い図鑑サイズで銀色に輝くオーディオ装置と、ベッドを挟むように配置されたスタンド一体のオーディオスピーカ。これでテーブルの上に小さなランの花がなければ、殺伐という方が近いかも知れぬ。
 彼女は肩下げバッグをベッドに放り出し、そのついでにオーディオ装置の電源を入れた。白い吐息で手先を温め、急いで部屋の片隅へ向かい、温水ヒータの電源を入れる。
 オーディオ装置が起動し、女性ヴォーカルを密やかに鳴らし始める。無垢アルミで銀色に輝く“オーラデザイン・ノート”が、深い木目のスピーカシステム“ソナスファベール・エレクタ・アマトール”に送り込むのは、トルコのポップス。

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(この子はSonus Faber  LUMINA)

 哀調を帯びたメロディを鼻歌に、彼女はダイニングに向かう。冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを取り出し、シンク上ステンレスの小さなポットに僅かに注ぐ。ポットを電熱コンロに載せ、加熱。その間にバスルームでうがいと手洗い。
 戻ってまず食器棚ガラス戸を開け、ガラス製のティーポットとカップのセットを取り出す。続いてしゃがみ込み、下段の木戸から陶器製の白いポットを取り出す。中から僅かにカサカサと音がする。
 ポット類をシンクに置くとコンロの湯が沸いた。
 彼女は湯をガラスのティーポットに移すと、再度、ミネラルウォーターを今度はカップ一杯分、ステンレスのポットで加熱。
 次いでテーブルに手を伸ばし、ポストの手紙を手にする。コンロの電熱にかざしてロウの封印を少し溶かし、小指のツメでスッと切る。
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(つづく)

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