アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【30】
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「我慢してはいけません」
サロンのチーフとバーテンダー氏がカウンターの奥から飛んできた。
「気分を悪くされたようです。タオルと、シーツと、横になれる場所を」
レムリアはチーフに言った。
「判りました」
チーフが立ち上がり、そこでジェフ氏と出くわす。二人で何事か相談し、隣接寝台車へ。
「……ドレスを」
婦人が膝の上で呟いた。
「あなたのドレスを汚し……」
「お気になさらず。私は看護師です。それよりも……」
言葉を繋ごうとしたその時、婦人が意識を失った。
バーテンダー氏曰く、婦人がサロンに来て、まずはクスリを飲む水を出したという。それは高血圧のクスリで、バーテンダー氏の母親と同じだからすぐ判ったとか。
「何か関係があるのでしょうか」
バーテンダー氏が尋ね、レムリアは大きく頷く。血圧が高くて降圧剤の処方を受けている。プラスアルコールの低血圧。
レムリアはゾッとするものを覚えて脈に触れ、婦人の胸に耳を当てた。
事態を罵る声。……知らぬ言語だがそうと判る。
この状況で言うことか……声の方向に目を向けた瞬間、手のひらから心拍がなくなった。
CA或いはCPA。すなわち心肺停止。
「すいません。この列車にお医者様は現在おられませんか?」
レムリアは心配そうなバーテンダー氏に向かって尋ねた。
バーテンダー氏が制服下、ベルトのホルダーに収まったトランシーバに手を伸ばす。
レムリアは心臓マッサージを開始する。婦人の胸元に両の手を組み合わせて乗せ、体重を掛けて押す。胸骨圧迫式心マッサージ(きょうこつあっぱくしきしんまっさーじ)である。
その動作に乗客達が事態の深刻さを理解したようである。集う人々に心配が宿り、表情を曇らせる。
「姫様、僕がやりましょう」
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(つづく)
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