アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【34】
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「いいえ、お手間を取らせるつもりはありません。持って行きます」
「判りました。ただせめて納めるビニール袋くらいは用意させて下さい。このままホームよりキャビンの方へご案内いたします」
ジェフ氏が懐中電灯を点し、足下を照らしてくれ、プラットホームを2号車まで歩く。汚れた服で動くホテルを歩くわけにも行くまい。
コンパートメントへ戻る。ベッドメイキングが完了しており、夜間用の青い電球が小さく点っている。
パジャマに着替え、据え付けのガウンを羽織ったところでドアノック。
「はい」
開くと、ジェフ氏とサロン車のチーフ。
「この度は私どもの方で対処すべき所、こともあろうに姫様にお手間を」
「看護師ですから。それよりも私がもう一瞬早く気付けば」
すると、ジェフ列車長は『信じられない』とばかりに、口を小さくアルファベットの〝o〟の字に作り、胸元で両手を重ね、首を左右に振った。
「なんという責任感の強いお方でおられるのだろう。おお神よ、この姫君は、まこと天より遣わされた聖なる姫君ではありますまいか」
跪いて十字を切り、両手を組んで祈るように。
その一連の動作と言葉は、あまりにも、あまりにもなオーバーアクション。
しかし、それはジェフ氏の純粋な気持ちの表れなのだとレムリアは理解した。1回きりのスペシャルクルーズ。列車長である彼にとって、乗客の快適な旅が途切れることは任務失敗。
「殿下のおかげさまをもちまして、少々の遅れのみで済みました。わたくしからもお礼を申し上げたく」
ジェフ氏の代わりといった具合で、サロンのチーフが冷静に加えた。
そして、二人して見つめられる。
姫様としては。
ここはスマートな答礼で応じるのが〝王道〟であろう。
「確かこの列車は中から手紙が出せるんですよね」
「ええ、はい」
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(つづく)
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