アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【71】
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画面に3次元レントゲンよろしく、透過された沈没船の船倉が映し出される。次いで、その〝裏蓋〟を切り取るような形に、赤い線が記入される。
文字通りの切り取り線だと判る。アルフォンススの銃はその線の通りに蓋を切るのだろう。
引き金を引いた旨の表示が出る。それは意に反して、アニメのロボットのように銃口を振り回すなど、大げさな儀式はなかった。
しかし、光のナイフは、樹脂で出来た倉庫の底部分に確実に切り取り線を入れた。
船内からロープを投げ、双子が上によじ登り、船長の銃が作った割れ目に指先を入れ、力任せに引き剥がす。
子ども達は。
『これは……』
マスト上から見たのだろう、アルフォンススが絶句した。
カメラも中を映している。しかしレムリアは見るのを躊躇った。見なくても判っていた。
子ども達は生きてはいる。生きてはいるが、そこは人間がいるような状況じゃない。
見るのは可哀想。
『一人ずつ身体を洗うべきか?レムリア』
「コレラ感染の危険があります。しかるべき施設に急ぐのが先決。船長さん達は……」
『了解。甲板は光圧シールドで常に下から上への流れがあり、外部とは隔絶されている。拡大はないから安心を』
つまり、仮に子ども達の間に伝染病が発生していても、甲板では常に上方に風が吹いていて病原菌は吹き飛ばされるので、直ちに甲板上の乗組員が感染するような事態は起こらない。
「わかりました。では先方に衛星電話を掛けたいのですが」
衛星の電波を捕まえるには、船外に出る必要があるが。
これにはシュレーターが応じた。
「コンソール下に幾らかコネクタが格納してある。本船が衛星との交信を中継するから接続して発呼してみろ」
「はい」
「レムリア……この子達に麻薬禁断症状が出ます」
セレネが言う。船は甲板に人がおりINSが使えず、なおかつ海面上からの出発であるため光出力を抑制した。このため加速度が稼げず、アムステルダムまであと3分。
待って。お願いだから待って。
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(つづく)
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