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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【73】

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 夜を迎える12月の教会。
 シスターが突然の風に驚き、礼拝堂から飛び出した時、教会の庭先には、沈み行く月の姿と、何か大きな〝影〟があった。
 巻き上がる砂埃に、シスターは腕を上げ顔を覆う。
 程なく風が収まり、シスターが腕を下ろすと、子ども達の、うめくような、意味をなさない幾つかの声。
 そして。
「(月よ我が身に我が思う映し身を)」
 原語で記述することは控える。それは、彼女自身と、彼女の母親のみが知る語。
 シスターが近づくと、影を映じた構造の上に、天使がいた。
 月に照らされ、翼輝かす天使がいた。何か箱状の物体の上に立つ天使であった。
「中からぶち抜くぞ」
「お願いします」
 成人男性と娘の声。その会話は英語であり、シスターにとって〝英語〟としか判らない。
 声がして数瞬、天使の立つ箱の中から光条が数本、天へ向け突き抜ける。
 光のビームが、壁を貫き夜空へ走る。
 そして、影の下。
 ランプ明滅するエレクトロニクスシステムが姿を現し、大きな翼のように左右に広がる。
「天の国へようこそ」
 箱の上の天使は、ヴェール状の着衣を広げて言った。天使は続いて、幾つかの言語で何か言った。そこにはオランダ語も混じり、シスターにもそれと判じた。
「ちょっとでかい音がするぞ」
 別の男。英語であるがシスターにも理解できた。
 カウントダウンの声があって破裂音がした。予告されても、それでも思わず身体がびくりと震えるような音であった。
 箱の側面から、今度は銀色が幾条か迸って出入り口が開いた。まるで封じられた宝箱が破られたようであった。
 光が開いた出入り口の傍らに、スッと飛び降りて来る少年。
 否、少年ではない。傍らの月影にいるのは〝魔法使い〟の小柄でスリムな少女。
 レムリアは月の光に働きかけ、〝天国の天使〟に化身して見せたのであった。いいのか悪いのか判らないが、必要なのは〝怖がらせないこと〟だと思ったからだ。そしてその技は一種の催眠術であり、故にてシスターにも天使と見えたのである。
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(つづく)

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