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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【106】

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 確かに異質の振動が混じる。船の前後バランスによるものは、ある程度のリズムがあり、振幅も一定だが、混じった振動は、ランダムな周期で振幅も〝ギザギザ〟。
「姫、今度こそ地震だ。ここは地溝帯の上だからな。たまにあるんだよ」
『地殻変動です。船体を左右から圧迫。断層が動きます』
 それはつまり、億トン単位の大地岩盤同士の擾乱。
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-神のご加護を。
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 その言葉は、この船と、このプロジェクトの場合、待つものではなく、自ら実践するもの。
「離脱!離脱して下さい!」
 レムリアは思わず叫んだ。
『やむを得ん脱出!シュレーター飛べ!レムリア衝撃注意!』
 船の通路が一瞬〝ヘ〟の字に曲がり、隔壁が撓って見えたのをレムリアは覚えている。
 そして船は動いた。動いたのだが、大地が、地震波が船体を変形させる力の方が、わずかに到達が早かった。
 端的には直下型の地震であった。通路にいたレムリアとEFMMメンバーには、大地と船体の加速による振動が同時に加わり、一旦浮き上がって隔壁に叩き付けられたような格好になった。
 直前にレムリアは頭から袋を被せられ、強い腕に抱え込まれる。腕はEFMM団長のそれであり、とっさに放射線障害患者搬送用の包袋を自分に被せたのだと知る。
 船よ。今我々の全てを託すのは、超絶の構体と光のエンジン。
 身動き取れない中、激しい振動を感じる。超感覚が状況をイメージに組み立てて寄越す。
 火が駆け上って来るイメージ。
 水が流れ込むイメージ。
 深く掘られた〝ゴミ穴〟は、大量の水と、核反応の熱を地下の断層へもたらし、大地岩盤間の固着を解放し、地震を生じさせたのであった。20世紀半ば、アメリカで化学兵器工場の廃液によって地震が誘発された〝デンバー地震〟と同じ現象であった。
 水分と熱で大地は泥と化し、震動で安定を失い、地溝帯へと泥流が流れ込む。アルゴ号はその流れに呑まれた。そのままでは地溝帯の深奥で煮たぎるマグマへと引きずり込まれる過程にあった。
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(つづく)

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