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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【22】

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 促され、車両間を移動して行く。こう通路を歩いて行くと、意識したせいもあろうが、とにかく木と花と葉が目に付く。現物のみならず、マーケットリーや飾り窓、ランプのシェードに至るまでそれは徹底されている。
 そもそもアール・ヌーボーという運動はそういう方を向いた代物だと薄々認識してはいる。ただ、現物・彫刻・材質に至るまで全て統一されるとエレガントの一言だ。
 ピアノの音。しかもオーディオ装置越しではなく、生演奏の鮮烈さ。
「ピアノ?」
「ええそうです。お寛ぎの一助になればとバーサロン車にて演奏しております」
 ピアノの音が次第に近づく。アムステルダム発車時より後ろまで来ているから、その車輛はオステンデの方から来たのであろう。
 演奏が終わったらしく拍手が聞こえる。バー車。アルコールを楽しむバーカウンターとサロンスペースを備えた車輛。日本ではなじみが薄い車種だが、欧州の長距離列車では普遍的であり、新幹線に相当する国際高速列車にも連結されている。
 車間を渡る。そこは日本であれば蛇腹状の貫通幌に鉄板が渡してあるだけ。輸送機械としての素性が顔を出す部分である。
「少しお待ちいただけます?」
 請われて足を止める。
 この列車では、その貫通路部分もカーペット敷きであり、幌はカーテンが吊られて目隠し。客が正装なのに列車側が機能剥き出しでは興ざめというわけだ。
 まるでステージ袖で出演待機している気分。
 隣接バー車は照度の落とされたシックな光使いの空間。正面にはグランドピアノが見え、そのラウンド形状に合わせて通路がしつらえてあり、更にその通路を挟んで湾曲したバーカウンター。壁や天井のデザインはどこのお城から切り取ってきたのか。
 バーテンダーが自分に気づいてウィンク。
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(つづく)

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