« アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【118】 | トップページ | アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【120】 »

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【119】

←前へ次へ→
.
 今夜も然りと。
 ならば。
「行きましょうか。あなたのもとへ」
『えっ……』
 ちありちゃんが絶句する間に、操舵室からイヤホンへ探知済みの由。サイタマ・プリフェクチュア。現在地より50キロ。山地の裾野で、この雪はより深く、より強く。
 相原の電話のマイク部を指で塞ぐ。
「急行願います」
 これで操舵室には話が伝わり、ピン、と音が返る。このピン音は注意喚起に用いられるが、今の場合了解という操舵室の応答である。マニュアルを読み聞かせたせいか、自分自身、この船で何が出来て、クルーが何を考えているか大体把握した。
 船が飛ぶ。
「電話は切らなくていいから」
『うん』
 不思議に思う気持ちが伝わって来る。その間に体調を尋ねる。体温に食欲の有無。
 船が止まる。
 上空で静止。ちありちゃんのお宅は(レムリアの認識を日本的に表現すれば)平屋建てで庭先が田んぼ。
 今はそこが一面銀世界。
 イヤホンに声「降下する」。
 今度はレムリアがイヤホンに指で触れ、ピン音を返すと、船は直ちに雪原へ高度を下げた。暴風は出せないが、深夜であり、周辺環境から見られる心配はまず無いので、セイルで滑空、軟着陸。
「お庭にワンちゃんがいますね。名前はビクター。白くて耳にブチがある。彼が吠えますよ」
 果たして、医療室モニターには吠える犬の姿と、携帯電話の向こうから吠え声。
『うそ……』
「庭先にお邪魔しました」
『えっ。えっ!?』
「出てみて下さい。私がいます」
 電話を閉じる。少し変なセリフ。
「光学シールドオフ。スロープを下ろして下さい」
 イヤホンに音が返り、レムリアは舷側通路を通って、スロープより雪原へ降り立つ。
 Tシャツにショートパンツという姿の自分。
 寒くはない。
 気取る必要もない。
 対し、パジャマにオーバーコートを羽織った姿で、縁側から降りてきた女の子。
. 
(つづく)

|

« アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【118】 | トップページ | アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【120】 »

小説」カテゴリの記事

小説・魔法少女レムリアシリーズ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【119】:

« アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【118】 | トップページ | アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【120】 »