アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【119】
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今夜も然りと。
ならば。
「行きましょうか。あなたのもとへ」
『えっ……』
ちありちゃんが絶句する間に、操舵室からイヤホンへ探知済みの由。サイタマ・プリフェクチュア。現在地より50キロ。山地の裾野で、この雪はより深く、より強く。
相原の電話のマイク部を指で塞ぐ。
「急行願います」
これで操舵室には話が伝わり、ピン、と音が返る。このピン音は注意喚起に用いられるが、今の場合了解という操舵室の応答である。マニュアルを読み聞かせたせいか、自分自身、この船で何が出来て、クルーが何を考えているか大体把握した。
船が飛ぶ。
「電話は切らなくていいから」
『うん』
不思議に思う気持ちが伝わって来る。その間に体調を尋ねる。体温に食欲の有無。
船が止まる。
上空で静止。ちありちゃんのお宅は(レムリアの認識を日本的に表現すれば)平屋建てで庭先が田んぼ。
今はそこが一面銀世界。
イヤホンに声「降下する」。
今度はレムリアがイヤホンに指で触れ、ピン音を返すと、船は直ちに雪原へ高度を下げた。暴風は出せないが、深夜であり、周辺環境から見られる心配はまず無いので、セイルで滑空、軟着陸。
「お庭にワンちゃんがいますね。名前はビクター。白くて耳にブチがある。彼が吠えますよ」
果たして、医療室モニターには吠える犬の姿と、携帯電話の向こうから吠え声。
『うそ……』
「庭先にお邪魔しました」
『えっ。えっ!?』
「出てみて下さい。私がいます」
電話を閉じる。少し変なセリフ。
「光学シールドオフ。スロープを下ろして下さい」
イヤホンに音が返り、レムリアは舷側通路を通って、スロープより雪原へ降り立つ。
Tシャツにショートパンツという姿の自分。
寒くはない。
気取る必要もない。
対し、パジャマにオーバーコートを羽織った姿で、縁側から降りてきた女の子。
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(つづく)
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