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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【19】

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『当プロジェクトでは、メンバー相互をコールサインで呼び合おうと思います。スペシャルな皆さんで構成されるスペシャルなチームです。いつもと違う自分となっていただく必要があるかと思いますので』
 これを字面通りに取ると、クラーク・ケントに対するスーパー・マンに相当する名を考えてきて、ということになる。
 文字通り物語やアニメの世界。
「ただでさえ詐称してるからねぇ」
 彼女は見つめるオリエンタリスを指先でつん、とやった。
 通う学校で彼女の本名を知る者はない。
 教えていないからだ。いわゆるフリースクール。基本は通信制であり、たまに顔出して無事を見せろ、というシステムなので、級友と話した回数は多くない。
 孤児院ではマジックもあって“魔法使いのお姉ちゃん”で通っている。
『お名前は?』
 小さな子に訊かれて、とっさに答えたのは。
「レムリア」
 Lemuria。言うまでもなくプレートテクトニクス出現前の動物分布を説明するための仮説であり、その大胆さゆえに幻想の大陸として扱われるようになったものだ。今にして思えば、手品使いである自分と、その幻想性故のミステリアスなイメージと、どこにもない……本名を隠している自分の、根無し草のような認識とが、そう言わせたのか。
 レムリアでいいや。彼女は決めた。従い以後彼女をレムリアと呼ぶ。彼女レムリアは12歳だが、書いたように一人暮らしであり、故国を離れてアムステルダムにいる。
 そして今オリエント急行で遥かアルプスの山懐、コルキスへと向かっている。
 その認識は何か、些細だが、ずっと手つかずで気になっていた仕事を一つ終えたようで、レムリアはようやく落ち着いてこのソファに身を預ける気になった。
 お茶を口にし、風景を目で追い、線路際に時折見える興奮気味の子どもの姿に思わず笑みを浮かべながら、気がつくとまどろんでいたり。
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(つづく)

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