アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【120】
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あの日、目の前で倒れた女の子は、やせ細って骨張っていた。
少しの時を隔てて再会した彼女は今、豊かな国の子どもとして相応の外見に回復し、髪も少し伸びた。
レムリアは笑みを作った。儀礼的なものではなく、彼女の快復に安堵して。
「天国の船」
女の子は視界を奪う異様な存在を見上げ、まずそう言った。
それから、ゆっくりと、スロープ下端に立つレムリアに目を向けた。
「眠れない夜は空の散歩が一番。お迎えに上がりました、いぬかいちありさん。よろしかったらどうぞご乗船を」
手を差し伸べる。舞踏会に隣国の姫君をお迎えする王女の作法で。
「天使さん。ああ、本当に天使さん……」
ちありちゃんは、さながら磁石に引かれるように、雪原を歩き、レムリアに手を伸ばす。
「元気になって良かった」
伸ばされた手を迎え、包む。
「ビクター。彼女を一晩誘拐してもいい?」
レムリアはちありちゃんを抱き寄せながら、犬小屋わきのぶち犬に尋ね、ウィンクした。
腕の中でちありちゃんが目を見開き、振り返って犬を見つめる。
魔女に黒猫、のみならず、動物の意思掌握は難ではない。機序としてはテレパシーの一種と思われる。血脈がもたらす人間以外への対象拡大であろう。明確に言語として知覚されない点が、対人間型生命と異なるが、何を考えているかは判る。
「……吠えない。ビクターが知らない人に吠えないって」
「あなたの瞳がキラキラしているのを久々に見た。彼はふさぎ込むあなたが心配だった。あなたを傷つける者が来たら守ろうとしていた。守護者としての狼の遺伝子を呼び覚まされた」
レムリアが〝彼〟の気持ちを代弁すると、当の〝彼〟は尻尾を振った。
「だから、留守は任せな」
本当はレムリア自身が照れるようなことを彼は思ったのであったが、レムリアはこう〝翻訳〟した。
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(つづく)
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