アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【105】
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『判った』
アルフォンススは重く、引きずるような声で言った。そして。
『アルゴ発進する。但し条件を付す。前進出力最大、同時に後進出力も発生させ相殺せよ。前進加速度1G設定』
それは前進と後進を同時に指令し、若干前進が勝る程度にせよ、の意。
その意図は。
『光圧で大深度へ掘削する。穴掘って炉を落とせ。地上への影響を極限まで軽減する』
『了解船長!レムリア、穴掘りながらここを脱出する。INSは使用できない。衝撃に備えよ』
「判りました」
シュレーターの注意喚起にレムリアは答え、イヤホンのピンを打った。
「姫。誰と話しているんだ?」
「リフトを動かします。手近のハンドル類につかまって下さい」
レムリアは答えず、昇降ゲートのハンドル、隔壁のロック用レバーなどをメンバーに示した。
各人がそれぞれつかまり、更に手と手を握り合う。
「EFMMはOKです」
『よろしい行け』
『主機関出力漸次増大』
船がぐらぐらと前後に揺れる。前進と後進をかなりの出力で同時に掛けているので、バランスの関係で多少の振動はどうしても生じる。
「姫、地震では」
「いいえ、このリフトが動いているだけ」
『炉の滑落開始確認。炉心温度1200ケルビン。限界近い』
『船体を回転させ炉床を打ち砕け、反応済み燃料を散らせ!』
卵の殻に穴を開け、水底にうずたかく積もっているであろう〝核ゴミ〟を光圧で飛び散らせろ。
核反応は燃料の密度が高い方が促進され、あるレベルを越えると反応が連鎖的になって止まらなくなる。その状態を臨界という。一気に全物質が核反応を起こせば核爆発である。
『船の向きを変える。レムリア……』
船長の声を警報音が遮る。
『異常振動検知……船長、エンジン制御ではないぞ』
シュレーターの冷静な分析、背後の焦燥。
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(つづく)
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