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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【4】

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 心臓がドキドキし、鼓動に合わせて手指が震え、便箋がカサっ、カサっと音を立て始める。彼女は深呼吸し、胸を軽く叩き、とりあえず葉が開いたであろうアールグレイをカップに移した。
 ガラスを染めるルビー色を一口含み、深呼吸してもう一度招待状に目を通す。コルキス王国……それはアルプス山懐の小国である。封印の紋章も同国王室の物だ。だったら、自分の本名を知っているのはある意味当然。
 便箋の最後には女王名のサインがあり、“アルゴ・ムーンライト・プロジェクト(Argo Moonlight Project)”なる文字が添えられている。それが立ち上げる救助ボランティアの団体名とある。
 コルキス王家のバックアップを得た団体、ということであろう。別にそこは驚くに値しない。現時点自分が所属している国際医療ボランティア“欧州自由意志医療派遣団(European Free-will Medical care Mission……EFMM)”にも、富豪や大企業などに混じり、幾つか王家の名がパトロンとしてリストされている。
 対し、これはちょっと毛色が違うというか、“濃い”気配を持つ。EFMMは活動が公開され、報道機関に取り上げられたり、ウェブサイトも良く探すと自分が写っている写真もある。企業や団体が“慈善活動してますよ”というポーズのために寄付している場合もあり、その受け口団体としての意味も重々承知の上での活動・公開であると言える。そこへ極秘と来た。これ見よがしに善意を出すなとは聖書の言だが、その意を汲んだというか、人知れず現れて姿を消そうという“正義の味方”を本気でやろうというニュアンスを感じる。
 それも非常な大規模で。
 彼女は列車のリーフレットを手にする。表紙には“王国会議加盟300周年記念”と銘打たれ、コルキス王家名義で列車をチャーターした、とある。加盟諸国を通るので、ぜひこの機会に乗車頂き、いにしえの王侯の気分を味わって戴きたく。が主旨だそうだ。ルートマップによれば、ベルギー王国のオステンデ及びネーデルランド王国…すなわちオランダのアムステルダムからそれぞれ1本ずつ列車が発車、途中で連結されて長い1本の列車となり、ドイツのバイエルンを横切り、オーストリアのウィーン、ハンガリーのブダペストを経由して、最終目的地はトルコのイスタンブール。但し自分のチケットは、当然、ここアムステルダム発で途中に位置するコルキスまで。
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(つづく)

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