アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【40】
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彼女はオリエンタリスを手元に衆目に一礼し、馬車に乗り込む。この瞬間、この花一輪の効果の程がどれだけ大輪か。ジェフ列車長、ありがとう。
「今しばらく」
ハロルド紳士は告げて馬車の戸を閉じ、荷物もろとも御者席に上がった。
ひと鞭。
駅前の通りを馬車が行く。
カメラと、指さす手と、どよめきに彼女は笑顔で手を振る。
石畳の街路は王宮までの半マイル余を真っ直ぐ伸びる。奥手は若干の勾配を持ち、山を背に広大な敷地を有するコルキス王宮へ向かい、その正面城門へ至る。
門扉の係りが二人いて、馬車の接近に合わせて扉を左右に大きく開く。
蹄鉄が石を叩くリズミカルな音を響かせ、馬車は王宮敷地へと入る。
芝生の庭園を緩やかに巡り、王宮車寄せに馬車は止まった。
ハロルド氏が馬車の扉を開き、伸べられた手に手を預け、彼女は馬車から大理石の玄関へ降り立つ。
「奥へどうぞ」
総大理石の城が彼女を迎える。玄関ホールは吹き抜けの円形であり、両側に丸みに沿って階段が設えられ、中央には遥か高みからシャンデリアが下がる。
ホール床面には奥へ向かって赤いカーペットが一直線。
先導されカーペットをゆっくり行く。
正面そのまま行けば、それこそ舞踏会など開くための大ホールが見える。傍らに説明用のプレートが立っており、普段は一般観光客がここを歩くと推定される。
しかし、今は自分以外に人の姿はなく、カーペットもホールへ向かわず、途中で左方に曲がり、エジプト王墓の偽扉に似た大理石のレリーフに至った。
ハロルド氏がレリーフの石に手をする。隠し扉の類であろう。〝自宅〟にもこの手のカラクリは十指を下らない。
果たして偽扉は左右に開いた。ただし中は時空を飛び越え現代エレベータのイメージ。
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(つづく)
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