アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【32】
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衛星携帯電話。
発呼した先はEFMMの本部。
「メディアです。列車で移動中急病人です。列車は今、ローゼンハイムからザルツブルクへ向かって走っており、イン川を通過。近場の病院に事態の照会と救急車の手配を願えますか?……はい」
レムリアは本部の回答を得、ジェフ氏に目を向ける。
「ジェフ列車長、キームゼーに止められますか?」
「あの湖の真ん中に城のある……」
「そうです」
「間に合います。了解しました」
ジェフ氏が制服の裾下からトランシーバを取り出す。
他方、レムリアはキームゼー停車可能とEFMMに伝える。
電話から了解の声が返る。病院からクルマを差し向けるとの由。
「判りました。ではその駅に臨時のオリエント急行が入りますと」
背後で激しく咳き込む声。
「姫様。ご婦人が息を吹き返された!」
「はい、今すぐ」
列車は夜の鉄路を征く速度を上げた。それは往年の超特急が蘇った如くであった。
揺れは若干増えた。しかし高速列車としての実績は安心感の内にある。
任務得ての疾走。豪奢なサロンのソファを集め、臨時のベッドとする。
「間もなく、間もなくですから」
ジェフ列車長が地図を持ってきた。
町の名はカタカナで書けばプリーン・アム・キームゼー(Prien am Chiemsee)。バイエルンの海と呼ばれるキームゼー湖畔の町だ。湖の中に島があり、未完のキームゼー城が建つ。城主はルートヴィヒ2世。有名なノイシュヴァンシュタイン城の建築で知られる。
列車はやがて減速し、汽笛一つを伴い駅構内に進入し、身をくねらせ転線し、プラットホームに滑り込む。ホーム上では駅係員と、レムリアが手配したこの地の総合病院スタッフが待機。寝台下に医療器具を満載したストレッチャー(キャスター付きベッド)が見える。
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(つづく)
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