アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【59】
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そこに、バベルの塔の無謀と違い、本当に手が届くかも知れない。
その現実味。レムリアは驚愕という名の暴風に全身が揺さぶられる感覚を覚えた。
自分は今、とてつもない何かに、組み込まれようとしているのかも知れない。
「レーダ異常ないか」
アルフォンススの問いかけに我に返り、画面に目をやる。レーダ画面に取り立てて表示は見えない。
「異常ありません」
「よろしい。出来れば3分おきに報告せよ」
「了解しました」
すぐそう返すのは、そう言えるのは、いわゆるバイタル・サイン・チェックで似たようなことをしており、身体が馴染んでいるせいだろう。3分、という時間も、時計を見なくても大体3分だと直感的に判る。絶対音感ならぬ絶対時間・絶対速度みたいなものが身についている。
「機関正常」
ラングレヌス。
「よろしい」
船は光噴いて高々度空中を南南東へ流れて行く。
地球を12分で一周すると書いた。速度に直せば実に秒速70キロ。
自分が学校までトラムに乗るより短い時間で、世界を一周してしまうというのだ。
文字通り〝地球の裏までちょっと行ってくる〟である。世界観の変換、パラダイムシフトというコトバがにわかに現実的・実在性を伴って身体全体に迫って来、意識のそれを要求される。
言い換えると、全容の見えない無限に近い大きな存在だったこの地球という星が、視界に全て収まる手のひらサイズに変わった。
自分が今、見ているのは、確かに丸い、青い地球。
それは巨大な、愛しい、しかし手の中の全て。
「綺麗……」
思わず声が出る。地球が青い球体であることは初期宇宙飛行士の名言だし、宇宙から撮られた写真ビデオにもそのように映っているので、知識としては知っている。
しかし、しかし。
ここまで鮮やかな、心の中全て洗い流されるほどの青さであるとは。
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(つづく)
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