« アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【74】 | トップページ | アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【76】 »

アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【75】

←前へ次へ→
.
 それは、嬉しい時の、安堵した時の、彼女の癖。
「あなたは……あなたは確かに魔女のレムリア」
 仕草を見て、改めて認識したようにシスターが言った。
「今、わたくしは多分……」
 シスターが言いかけたその時。
「魔女さん。一人倒れてしまいましたっ!」
 レムリアは声の方へ目を向ける。
「ちょっと失礼」
 駆け寄ると、耳を捉えたのは、間違いなければ日本語、であった。
「おかあ……さん」
 細身の、否、痩せてしまった少女である。
 タオルの下に手を入れ、骨張った身体に触れると熱く、脱水症状の様相。
 熱帯の海上で箱の中に閉じこめられていたのだ。当然であろう。
「レムリア!」
 背後の船、甲板上から声を掛けてきたのは、双子の片方。
「この服には名前がある。読めるか?」
 月明かりの中に彼が掲げたのは、淡い水色のワンピース。
 すなわち、彼のあずかり知らぬ文字言語で書かれているということであろう。
「ちょっと待って下さい」
 レムリアは船の彼にまず言い、少女の様子を見る。
「この子は脱水症状を起こしています」
 それは本来医師の診断すべきこと。
 ただ、ここには設備がある。対して医師を悠長に待つ気はない。
「この子をベッドへ。……その服を見せて下さい」
 シスター達に生命保持ユニットのベッドに運んでもらい、服へ手を伸ばす。
 服を持った彼……銃の形状からしてラングレヌスであった。彼は服を投げたりせず、手に持って生命保持ユニットへ降りてきた。
「これだが」
 ワンピース首部分のタグに名前がある。
 日本の文字。それこそ、この子であろう。
「ち・あ・り。いぬかい」
 二段に分けて書かれた「いぬかい・ちあり」をレムリアは下から読んだ。
 名前を呼ばれたせいであろう、ベッドの少女が反応する。テレパシーが働いてその通りと知る。彼女は冬の南の島で、海岸を一人歩いていて人身売買グループに拉致された。
 身元が判ればすることは一つ。
. 
(つづく)

|

« アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【74】 | トップページ | アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【76】 »

小説」カテゴリの記事

小説・魔法少女レムリアシリーズ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【75】:

« アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【74】 | トップページ | アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【76】 »