アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【75】
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それは、嬉しい時の、安堵した時の、彼女の癖。
「あなたは……あなたは確かに魔女のレムリア」
仕草を見て、改めて認識したようにシスターが言った。
「今、わたくしは多分……」
シスターが言いかけたその時。
「魔女さん。一人倒れてしまいましたっ!」
レムリアは声の方へ目を向ける。
「ちょっと失礼」
駆け寄ると、耳を捉えたのは、間違いなければ日本語、であった。
「おかあ……さん」
細身の、否、痩せてしまった少女である。
タオルの下に手を入れ、骨張った身体に触れると熱く、脱水症状の様相。
熱帯の海上で箱の中に閉じこめられていたのだ。当然であろう。
「レムリア!」
背後の船、甲板上から声を掛けてきたのは、双子の片方。
「この服には名前がある。読めるか?」
月明かりの中に彼が掲げたのは、淡い水色のワンピース。
すなわち、彼のあずかり知らぬ文字言語で書かれているということであろう。
「ちょっと待って下さい」
レムリアは船の彼にまず言い、少女の様子を見る。
「この子は脱水症状を起こしています」
それは本来医師の診断すべきこと。
ただ、ここには設備がある。対して医師を悠長に待つ気はない。
「この子をベッドへ。……その服を見せて下さい」
シスター達に生命保持ユニットのベッドに運んでもらい、服へ手を伸ばす。
服を持った彼……銃の形状からしてラングレヌスであった。彼は服を投げたりせず、手に持って生命保持ユニットへ降りてきた。
「これだが」
ワンピース首部分のタグに名前がある。
日本の文字。それこそ、この子であろう。
「ち・あ・り。いぬかい」
二段に分けて書かれた「いぬかい・ちあり」をレムリアは下から読んだ。
名前を呼ばれたせいであろう、ベッドの少女が反応する。テレパシーが働いてその通りと知る。彼女は冬の南の島で、海岸を一人歩いていて人身売買グループに拉致された。
身元が判ればすることは一つ。
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(つづく)
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