アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【17】
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「こちら押して頂ければ、廊下にランプが点きまして、わたくしが参じます。ディナーは7時から。食堂車はオステンデから参ります6号車になります。時間になりましたらわたくしがお迎えに上がります」
「盛装で、ですね」
応じたら、ジェフ氏は胸を押さえてオーバーアクション。
「迎えに上がったわたくしが感激で気絶したら介抱はお願いしますよ」
どうやら彼らは万事お上手、である。
ジャスミンティーも香りがきついでなく、口当たりは至極まろやか。
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-4-
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列車はユトレヒトで黄色一色の電気機関車にバトンタッチし、目に見えて高速走行を開始した。
ワゴン・リの客車群は元より時速140キロでの走行が可能な設計であるが、復古後に現代の安全基準に適合させた結果、最高速度は160キロを確保した。但し“エレガントに”走ることに主眼を置いた現代のクルーズ走行では、120キロ程度に抑えることが多い。ディナーのワインがユラユラ揺れては興ざめなのである。ちなみにオリエント“急行”と訳されるわけだが、その位置付けは現代日本における「快速以上、特急未満」といった中途半端なものではなく、機関車性能と、燃料と、車内の生活用水の限界まで速度と無停車を目指した、「超特急」と表現した方が正しい。文字通り可能な限りぶっ飛ばしたのである。
その超特急性は、保存運転とはいえ、この列車の“矜持”としているのであろう。次の停車は国境を越えてドイツのエメリッヒ。ここで機関車をドイツのものに交換し、一足飛びにケルンへ向かう。到着は夕刻。
車窓にはユトレヒト近郊の景色が流れる。この辺は時折来ており、改めて眺める風景ではない。しかし乗ってる列車が列車のためか、同じ風景なのにまるで映画。合理化簡素な快速電車でペットボトル片手……に比して、ソファでくつろぎジャスミンティー。あまりにも世界が違う。
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(つづく)
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