アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【12】
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エミリーさんはそこまで喋り、
「今回の特別運転は、ベルギーのオステンデをターミナルとした、オステンデ・ウィーン・オリエント急行という列車のルートを基本にしています。この列車には、アムステルダム発でケルンにて乗り継ぎ出来る連絡列車がありました。往時はそこでお乗り換え、だったのですが、今回は2本の列車を走らせ、そこで連結します」
それを再現してのチャーター運転なのだ。
エミリーさんは列車へ向かって歩き出しながら続けた。今ここに発車を待つ車輛たちは、その1977年の廃止後、オークションに出されたり、欧州のそこここで朽ち果てていたのを、買い集めて復古した物、という。
「日本を走り、日本の山の中に打ち棄てられていた車輛も含まれてるんですよ」
「日本?」
彼女は思わず立ち止まってエミリーさんに問い返した。
「ええ、香港まで走って、そこから船で。パリ発東京行きの列車が走ったのです。世界最長の記録ですよ。この列車に相応しい記録ではないでしょうか」
エミリーさんは少し自慢げにも聞こえるように言い、微笑んだ。
パリから東京……彼女はこの流麗が日本へ行った様を思う。日本、何か惹き付けられる国……それは、このユーラシアの向こうにある平和の象徴。
元々自分の家系はアジアに根幹があると聞く。確かにたまにテレビに映る“ニッポン”の人たちは、自分と見てくれに近しさを感じる。いやどころか多分、自分がハラジュクやアキハバラを歩いたところで、違和感ないのではあるまいか。
「ワゴン・リ社を創設したナゲルマケールスは、最終的にシベリア経由で日本へ走らせる腹づもりでいたようです。列車名にオリエントを冠するなら、日本こそ欧州から見た場合真のオリエントですからね。パリ万博でその旨の旅行ポスターを展示していたこともあります。日本での運転は1988年でしたが、運転開始100年余りにしてようやくその意が達せられたということです」
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(つづく)
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