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アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【11】

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「ええ、オリエント急行は本来パリをターミナルとする列車です。ハイネス」
 彼女が立ち止まって沈黙したのを、“知識ゆえの違和感”と捉えたか、エミリーさんが傍らで言った。
 オリエント急行。
 1883年にワゴン・リ社が欧州各国の鉄道会社と契約、パリ-コンスタンティノープル間に運転開始した国際列車である。それだけの長距離・長時間(3000キロ89時間)運転される列車は前例なく、快適性を求められることから、走る高級ホテルといった様相になった。これは冒頭記したように利用者がある程度限定されるためであったが、しかしてその豪華さ、欧亜国境というパリやロンドンから見て文字通り“東方の果て”、へ向かうエキゾティシズムも手伝い、列車として他に類を見ない神話的ステータスを獲得するに至った。ちなみに当初正式な列車名はなく、“オリエント急行”という呼称は、愛好者の間で自然発生的にそう呼ばれるようになったものを、ワゴン・リ社が正式に採用したという経緯がある。押しつけの名でなく、イメージに合致した自然な名前だったらからこそ、尚一層この列車を神話化することになったかも知れない。
 エピソードを書けばキリがないが、アガサ・クリスティの名作“オリエント急行殺人事件”は、この列車の名を世界中に広め、神話化を確定させた物語と言って過言ではないだろう。彼女アガサは自身、この列車の愛好者であり、この列車で考古学者である夫君と知り合い、この列車で夫君のエジプト調査に同行した。しかし、彼女の愛した列車は2次大戦で運転休止を余儀なくされ、その戦役で発展を遂げた航空機に客を奪われ、1977年にその命脈を一旦絶たれる。
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(つづく)

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