アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【33】
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機関士が技巧を発揮し、バーサロン車出入り台を病院スタッフの前にピタリと止める。最も、オリエント急行は王侯を運んでいた列車。超一級の機関士でなければ運転が許されない。この程度は当然、であろう。
列車長ジェフ氏が車端に向かい、ドアが開かれる。人の声がし、夜気と共にスタッフが乗り込んで来る。
「Bitte kommen hier.」
「Ich gehe sofort.」
スタッフは車端からソファまでの僅かな距離をも走り、婦人に呼吸器と心電図装置を装着した。搬出は車輛出入り台が狭く担架が使えないため、シーツに婦人を乗せ、4人で抱えて移動とした。
「ごめん……ごめんなさいね……」
婦人はレムリアの手を握り、涙を流した。
「折角のあなたの旅行を……汚してしまった……」
「いいえ、ひととき姫の時間が過ごせて幸せでした。この地は温泉地でクアハウスがあります。ゆっくり養生なさって下さい。後でまたお見舞いに参ります」
本当は降りて付いて行きたいが、病院の規模からして充分であるし、
行く手に待つ物が重い。列車と、それらを、自分の都合で投げ出すわけにも行かぬ。
病院スタッフに託す。ストレッチャーに移す間にスタッフに概況を説明する。
「判りました。後は我々で」
「必ずまた来ます」
レムリアの声に、奥様は片手を上げて応え、ストレッチャーに乗って去った。
傍らでジェフ氏が奥様の物と思われる荷物を駅係員に渡している。
荷物のタグに何事か書き込み、病院スタッフを見送る。
駅の向こうへ救急車が走り去るのを確認すると、ジェフ氏はレムリアに目を向けた。
「姫、ドレスは如何致しますか?こちらでクリーニングを依頼して、後で届けさせることも可能ですが」
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(つづく)
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