アルゴ・ムーンライト・プロジェクト【60】
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仮に〝美しさ〟に絶対的な基準器があるのなら、この地球の青こそ、それなのではあるまいか。古代珍重されたラピスラズリは、人がどこかしらそれを知っていて、無意識に求め続けた証左なのではあるまいか。
「見とれていいが、レーダとカメラの異物だけは見逃さんでくれよ」
シュレーターが傍らで小さく笑い、
「まぁ、オレもそうなったけどな。自分で造っておいて自分で見とれて自己満足の自己陶酔だな」
しかしその気持ちは良く判る。目の下を流れて行く瀝青は地球そのものなのだ。
いつまでも、眺めていたい。
さて、作者としては、彼女が瞳を青く染めているこの時間を利用し、数々登場した横文字語の意味とそれら名を冠したシステムについて軽く注釈を加えたい。但し、原理と構造まで言及すると多大な枚数を割くため、ここでは機能のみの説明にとどめる。委細は実際に動く状況を掌握いただいた後としたい。
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「対消滅光子ロケット(ついしょうめつ こうし ろけっと)と言って意味が判るか?」
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・光子ロケット
この船の主機関。原理自体は1930年代に発表されたが、実現は22世紀以降になると見られていた究極の推進装置。名の通り光そのものを推進力に用いる。先ほど船尾でパラボラ状のリフレクションプレートが展開したが、ここにその光を当て、船を押させる。原理上光速近くまでの加速が可能であり、故をもって宇宙航行用なのである。
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「ギフォード・マクマホン・サイクル動作正常。液体窒素温度70ケルビン。INS(いんす)予冷装置7ピコケルビン、ゼロ点振動。燃料反水素容量10パーセントチャージ。残容量100パーセント読替設定」
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・ギフォードマクマホン(Gifford-McMahon)サイクル
絶対零度を目した冷却システムであり、名前の由来は発明者から。この船では光子ロケットを筆頭に絶対零度・液体窒素温度で動作する機器が多い。これら極低温生成のために搭載している。従い、故障の許されない基幹装置。
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・液体窒素
光子ロケット部、及び別記INSで使用している超伝導コイルの冷却用。
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・ゼロ点振動
物体を絶対零度近傍まで冷却すると生じる現象。この振動の観測を持って冷却システムの動作正常と判断する。
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・燃料反水素
光子ロケットの燃料である水素の反物質。通常の水素と出会うと〝対消滅〟反応を起こし、推進用の高エネルギ光子に変化する。なお、貯蔵中に通常水素と反応を生じてはならないため、絶対零度真空(負エネルギ環境)で保存。
(やばい現実が追いついて来た)
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(つづく)
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